●エムバペは前半なぜ静かだった?

 FIFAワールドカップカタール2022・グループリーグD第2節、フランス代表対デンマーク代表が現地時間26日に行われ、2-1でフランス代表が勝利している。デンマーク代表の守備は決して脆くなかったが、フランス代表はキリアン・エムバペらの個で再び守備陣を切り裂いた。理不尽とも言える強さだが、付け入る隙はあるのだろうか。(文:小澤祐作)

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 フランス代表のサッカーは完璧とは言い難い。攻守両面で荒い部分はある。

 それでも試合には勝てる。個の能力が違う。アルゼンチン代表やオランダ代表、ドイツ代表らが点を取るのに一苦労している中、レ・ブルーはあっけなくゴールネットを揺らしてしまう。オーストラリア代表戦とデンマーク代表戦の2試合の合計得点数は「6」。その中にPKがないのは、もはや恐るべき事実だ。

 デンマーク代表戦ではキリアン・エムバペが爆発した。前半は少し静かだった印象だが、後半に入り一気に2ゴールをマークしている。これで今大会すでに3得点目。4年前のロシア大会に続き、またも主役の座に就いたのかもしれない。

 デンマーク代表の守備は徹底されていた。基本的には5-4-1のブロックを敷くが、フランス代表がバックパスを選択するなどラインを押し上げられる状況となった時は、右のシャドーに入ったイェスパー・リンドストロムが縦にスライドし、4-4-2化してビルドアップを制御していた。そしてサイドにボールが逃げれば、ウィングバック+プレスバックするシャドーで数的優位を作る。フランス代表のインサイドハーフに対してはそのままインサイドハーフを当て、中央を締めていた。

 フランス代表はこの守備に手を焼いていた。エムバペが前半静かだったというのは上記した通りだが、同選手が悪かったというより、デンマーク代表の対応が良かったと評するべきだろう。UEFAネーションズリーグでフランス代表を下していたデンマーク代表には、どこか自信があったようにも思う。

 39分には、アントワーヌ・グリーズマンから左に展開し、テオ・エルナンデスが内側のスペースをフリーで駆け上がるシーンがあった。この時シャドーの選手はフランス陣内に残っていたが、インサイドハーフのクリスティアン・エリクセンが懸命な戻りでT・エルナンデスを止めた。不測の事態への対処も、怠っていなかったように感じる。

 しかし、フランス代表の個はそんなデンマーク代表の想像を遥かに超えた。

●ほんのわずかな隙が決定打に

 先制ゴールは61分に生まれた。自陣でボールを奪ったオーレリアン・チュアメニからT・エルナンデスにボールが渡りカウンターが発動すると、外に開いたエムバペにパス。そこからT・エルナンデス→再びエムバペと繋がり、カスパー・シュマイケルの壁を破った。

 カウンターだったため、デンマーク代表の守備は人数が足りていなかった。エムバペがボールを持った際にヨアキム・アンデルセン、ラスムス・クリステンセン、そして懸命に戻ってきたミッケル・ダムスゴーアの3人は、揃って背番号10のカットインを警戒していたので、内側を走っていたT・エルナンデスは難なくアンデルセンの背後を取ることができている。わずかな隙だった。

 デンマーク代表は68分にセットプレーからアンドレアス・クリステンセンがゴールネットを揺らし同点に。その後、守備陣形を5-3-2に変更している。しかし、これが失敗。フランス代表に痛いところを突かれた。

 41分、キングスレー・コマンが巧みな動きだしでWBの背後を取り、そこから切り返してサポートに入っていたグリーズマンにパスを出した。少し前までであれば、デンマーク代表はここにシャドーの選手が戻って対応していたのだが、5-3-2にしたことでそのカバーが間に合わない。結果、グリーズマンは余裕を持ってクロスを上げ、見事ファーサイドのエムバペに合わせた。

 いずれもほんのわずかな隙である。フランス代表以外のチームが対戦相手ならば、おそらく気になることはなかっただろう。しかし、その“わずか”を決定的なものにしてしまうのがフランス代表、そしてエムバペだ。もはや戦術だけで解決できるようなことではない。

●フランスに付け入る隙はある?

 そんなフランス代表に付け入る隙はあるのだろうか。

 攻撃はあまりに理不尽。いくらデンマーク代表のように準備しようと、お構いなく崩せる圧倒的な個がある。完璧に抑える術はなさそうだ。

 ただ守備に関しては、若干の脆さはある。オーストラリア代表、デンマーク代表にそれぞれ得点を許していることからも、それは確かと言えるだろう。

 フランス代表は基本的にエムバペが深い位置まで戻らない。そのため、相手の右サイドがフリーになるケースが多く、実際デンマーク代表は左サイドから右サイドへのチェンジパスを何度も繰り返していた。

 1対1の対応を任されるのはもちろんT・エルナンデスで、カバーに入るのはインサイドハーフのアドリアン・ラビオが基本だ。もちろんダヨ・ウパメカノが全くT・エルナンデスのカバーに入らないわけではないが、おそらくディディエ・デシャン監督はあまりCBを動かしたくはないと考えている。CBが中にどんと構えることで、T・エルナンデスが1対1の局面を多く作られ、何度クロスを上げられても跳ね返せる確率が高いからだ。ここも個と言えば個かもしれない。

 問題は左サイドにボールを回されること自体ではなく、チュアメニの負担にある。ラビオが左SBのカバーに入り、グリーズマンの頑張りにも限界があるとなると、レアル・マドリード所属MFのカバー範囲が尋常ではなく広い。とくにサイドで深さを取られ、マイナス方向へ折り返されると、いくら広範囲をカバーできるチュアメニでも厳しい。デンマーク代表戦の73分のシーンは、その例と言ってもいいかもしれない。

 オーストラリア代表戦とデンマーク代表戦では、そこまで守備の脆さは露呈されなかった。しかし、より相手のレベルが上がれば、今は小さな傷口も大きく広がってしまうかもしれない。

(文:小澤祐作)