●砂浜のブラジルと牧草のアルゼンチン

FIFAワールドカップカタール・グループC第2節、アルゼンチン代表対メキシコ代表が現地時間26日に行われ、2-0でアルゼンチン代表が勝利した。初戦を落としたアルゼンチン代表は相手対策が奏功し、リオネル・メッシが決勝ゴールを叩き込んだ。激しい攻防が続いたこの試合は、アルゼンチンらしい勝ち方をしていた。(文:西部謙司)
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 ブラジルは砂浜のサッカー、アルゼンチンは牧草のサッカー。よく使われるフレーズらしいが、南米2強のプレースタイルを端的に表している。ビーチサッカーが盛んなブラジルは浮き球のコントロールやアクロバティックなキックが得意で、深い牧草でボールが止まるアルゼンチンは球際の競り合いに強いというわけだ。

 今大会のアルゼンチン代表は伝統の色濃い力闘型である。

 サウジアラビア代表戦を落として追い込まれてのメキシコ代表戦、球際の激しいゲームを2-0で勝利した。終わってみれば、逆境に歯を食いしばって耐え、ここというチャンスをモノにしてしぶとく勝つのは筋書きどおりにも思えてしまう。もちろんそんなシナリオなどないけれども、忍耐サッカーこそアルゼンチンの人々の琴線に触れる戦い方なのだ。

 一時期、年末になるとイタリアワールドカップのブラジル代表戦をよく再放送していたという。ブラジル代表の波状攻撃に耐え、ディエゴ・マラドーナのパスからクラウディオ・カニージャのゴールで勝った試合だ。華麗な勝利や大差勝ちではなく、耐えに耐えてワンチャンスで勝ったこの試合が好まれているというのがアルゼンチンらしい。

 リオネル・スカローニ監督はサウジアラビア代表戦から先発5人を入れ替えた。戦い方も修正している。

●機能していたアルゼンチン代表のトライアングル

 左SBマルコス・アクーニャの位置が高い。攻撃時は3バックにして左SBを敵陣深く送り込むのは、日本代表戦のドイツ代表のやり方と似ていた。MF左のマカリステルを中へ入れて数的優位を中央部で作るのも同じ。緒戦のレアンドロ・パレデスに代わってボランチに入ったギド・ロドリゲスは3人に可変したDFの前に待機して、ときおり最終ラインに下りてビルドアップを行う。

 前半は各所で激しいデュエルが連発、アルゼンチン代表もメキシコ代表も一歩も引かない膠着した流れだったが、後半から中央部をカバーしきれなくなったメキシコ代表が後退を余儀なくされてアルゼンチン代表が押し込む展開になった。

 64分にメッシが左足一閃の低いミドルを決めて先制。さらに89分にはロドリゲスに代わって入っていたエンソ・フェルナンデスが見事なファーポストへ巻いていくシュートで2-0と突き放した。

 アルゼンチン代表は左のトライアングルがよく機能していた。DFリサンドロ・マルティネス、MFアレクシス・マクアリステル、そしてSBからFW化するアクーニャの3人だ。マルティネスは身長175センチとCBとしては小柄だが、寄せの速さや読みの良さで守備力は高く球際にも強い。そして何といっても左足のフィードが絶品。マルティネスの丁寧なパスが左のトライアングルが機能させていた。

●メッシはずっと圧倒的だったわけではない

 先制すると、ロメロを投入して3-5-2にシステムを変え、メキシコ代表のシステムと噛み合わせる。ここからは辛抱とカウンターの時間。最後にショートコーナーからメッシを経由してフェルナンデスのゴールへつなげた。

 メッシは1ゴール1アシスト。ただ、試合を通じてスーパーな活躍をしていたわけではない。もちろん随所に高い技術を見せていたが消えている時間もある。試合を通じて圧倒的というほどではないが、アルゼンチン代表の人々が大好きなブラジル代表戦でのマラドーナのように、ワンチャンスをモノにするプレーは圧巻だった。

 メキシコ代表対策の戦術変更がズバリと当たったとはいえ、それも対処療法的で全体に相手を圧倒するほどではない。あまりモダンではなく泥臭い戦い方だ。しかし、これこそアルゼンチンの伝統ともいえるスタイルなのだ。苦闘の末にしぶとく勝利をつかむ。わざと苦労しているはずはないが、どうしてもこうなる。

 ただ、人々と心を1つにできるアルゼンチン代表らしい勝ち方であり、強いのかそうでもないのかよくわからないまま勝ち抜いていく。そういう意味で、チームがしっかりとレールの乗った試合だったかもしれない。

(文:西部謙司)