日本代表はカタール・ワールドカップの決勝トーナメント1回戦でクロアチアと対戦し、1-1で突入したPK戦の末に敗戦。ベスト16の壁を越えることはできなかった。
ドイツやスペインよりも、クロアチアはシンプルに前へ蹴ってディフェンスラインの背後を狙ってきた。怖さも感じたが、相手のロングボールをはね返してセカンドボールをしっかり回収できれば、フリーとなっているボランチの守田と遠藤を起点にパスを繋げて、時間もスペースも与えてもらえるという試合だった。
そのなかで日本は、前半終了間際の43分に先制。ショートコーナーで堂安のクロスから、ゴール前のこぼれ球にいち早く反応した前田が詰めてネットを揺らした。前田は今回、前線からずっとプレスをかけ続けて頑張ってくれていたから、神様がくれたご褒美の1点だったんじゃないかな。
先制に成功して、選手も監督も「これはいけるな」と思っただろうけど、できれば追加点を早めに取れていれば、結果は変わっていただろうね。
そのためには、両サイドの三笘と伊東に1対1で仕掛ける機会をさらに多く作る必要があった。右サイドの伊東が、前半から対面するバリシッチとのスピード勝負にことごとく勝っていたのを見ると、もっと勝負の回数を増やしてあげたかった。
相手のセンターバックのグバルディオルは、20歳の若さながらスピードも高さもあって、総体的にレベルの高いディフェンダー。この選手をいかに効果的なサイドチェンジで左右に動かして隙を作るか。それができれば、伊東はもう少し良い状況で仕掛けられたんじゃないかな。
今大会を通して伊東のパフォーマンスは非常に良かったから、彼の強みを発揮しやすい状況をもっと作れていたら、格段にチャンスの数は増えたはずだ。
左サイドの三笘も同様。相手にすごく警戒されていて、ボールを持っても縦に突破するコースを切られていたよね。そういった事態を想定して、素早い逆サイドへの展開で相手ディフェンスのズレを生み、空いたスペースに三笘が仕掛ける、といった攻撃のイメージをチーム全体で共有してほしかった。
今回は交代策についても疑問に思う部分があった。日本は後半、鎌田に代えて投入した酒井をウイングバックに配置。堂安を下げて、伊東がシャドーでプレーした。ただ個人的には、グループステージで2ゴールを挙げてノリに乗っている堂安を中央に置いたままで、突破力のある伊東を右サイドに張らせておいたほうが、勝ち越しゴールを狙いにいくうえで効果的だったのではないかと感じた。
相手の左サイドのペリシッチにヘディングで同点弾を決められたから、その対策として、より守備能力が高い酒井を投入したのかもしれないけど、得点を取りにいかないと勝てないからね。伊東をサイドに固定できなかったのは、マイナスだったよ。
最後のPK戦では、3人が外してしまい敗れた。PKは運だと言う人がいるが、運ではなく技術だよ。そこはやはり、前回大会準優勝のクロアチアとの経験値の差が出たね。
メンタルはもちろん必要だけど、それだけではなく、誰にも邪魔されない状況で自分の思った場所に、正確にボールを蹴る技術、キックの質が重要。そういった基礎的な部分を向上させていくのも日本の今後の課題だ。
いずれにしても、ドイツとスペインに勝利してグループステージをトップで通過した功績は称えられるべきだと思う。本当に良いチームで、世界に通用する姿を見せてくれた。大会を通じて監督をはじめ、選手、コーチングスタッフには何よりもお疲れ様、そしてありがとうと伝えたいね。
【著者プロフィール】
金田喜稔(かねだ・のぶとし)/1958年2月16日生まれ、64歳。広島県出身。現役時代はドリブルの名手として知られ、中央大在学中の1977年6月の韓国戦で日本代表デビューを飾り、代表初ゴールも記録。『19歳119日』で記録したこのゴールは、現在もなお破られていない歴代最年少得点である。その後は日産自動車(現・横浜)でプレーし、1991年に現役を引退。Jリーグ開幕以降はサッカーコメンテーター、解説者として活躍している。
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