マウリシオ・ポチェティーノは、トッテナムとパリ・サンジェルマンの指揮官としてカタール・ワールドカップのピッチに立ったトップ5のうち4人を指導した稀有な人物だ。ハリー・ケイン、リオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エムバペについて話を聞いた。
―――◆―――◆―――
――マラドーナはドレッシングルームでも愛されキャラでした。メッシはどうでしたか?
「レオは違った形で感情を表現する。自分だけの胸の内にとどめ、なかなか表に出すことがない。その点、ディエゴは衝動的だった。レオがディエゴとの比較において損を被ってきた原因でもある。結局人々が求めるのは、泣いて、言い争い、喧嘩腰になる姿だ。レオは思慮深い人間だ。行動を起こす前に熟慮する」
――ネイマールは?
「モチベーション、ハート、カリスマ、エネルギーを発揮してブラジルを牽引する。チームにおける絶対的なリーダーだ。他に見当たらない。ブラジルのようなチームにはネイのような激情型のリーダーが必要だ」
――ネイマールもメッシと同様にポジションを下げて、攻撃のリズムを刻むことができる選手です。2人の違いはどこにありますか?
「レオはプレーに継続性を与えることに責任を感じている。ボールを奪われることに恥ずかしさを感じてもいる。レオは、どこのスペースが空いているのかを瞬時に把握することができる。中盤に下がっても、いつもファイナルサードで発揮しているその能力を駆使して、得点に繋がるパスを供給し、自らもフィニッシュに絡む。実際、中盤で股抜きやバックヒールをする姿は、まず目にすることがない。慎重を期して足のあらゆる部位を使って、攻撃を展開する。
ネイは全く異なる。共通しているのは、ピッチの様々な場所に顔を出すことだけで、責任を持つことがない。元々無責任な人間だからね。中盤まで下がって、足裏でボールを押さえ、これでもかというほど相手に見せびらかす。ボールを失うこともある。蹴りを食らうこともある。自軍のペナルティエリア内で股抜きを狙うことも厭わない。
ボールを失っても、恥ずかしさを感じない。でもだからこそ彼のプレーには遊び心がある。メッシはロンド(ボール回し)を楽しんでいる。中央に入ることはほとんどない。一方、ネイマールはいつも股抜きを狙っているから、しょっちゅう中央に入っている。メッシはシンプルさに喜びを見出す。ネイマールは複雑さに喜びを見出す」
――ではエムバペは何に喜びを見出しているのでしょうか?
「キリアンは若くて未熟なところがある。でもワールドカップで優勝しているのは彼だけだ 彼はアニマル(動物)だ。カリスマ性があって、周りの人を引きつける魅力がある。足下の技術も高い。ただまだ自分の能力というものを知る必要がある。その点、レオとネイは、自分何者で何を求めてられているのかを理解している。例えば、2人と比べると、どこでリスクを冒すべきか、そうでないかの見極めに苦労している。レオとネイは違う。自分に何ができるかを知っている。
キリアンも自分に何ができて、その中で何がプラスになり、何がマイナスになるかを知る必要がある。それが顕著に表れているのが、ポジションを下げるタイミングだ。まだその判断が甘く、チームが何を必要としているかを読み取ることができていない。2列目やサイドの選手が走り込むスペースにパスを出すのか?攻撃を加速させるのか?彼はまだそのポジションを下げて味方を活かすプレーが、メッシやネイマール、さらには(カリム)ベンゼマやケインに比べて劣っている。
ファイナルサードでの崩しのコンビネーションには長けている。ワンタッチパスを駆使して、スペースに走り込む。キリアンは、スペースが大好物の選手だ。それは間違いない。スペースをアタックするプレーをさせれば、彼の長所が全開になる。ゴールに向かって走り、守備網を破壊し、フィニッシュワークに絡むことを楽しんでいる。まさにスプリント能力に長けた競走馬だ」
――ケインほどボールを受ける前に何をすべきかが明確に見えている選手はいないと考えるのですが、買いかぶり過ぎでしょうか?
「ハリーはどのポジションでも質の高いプレーを見せることができる。セットプレーの守備、味方を走らせるロングパス、もちろんフィニッシュワークも高次元にこなす。マラドーナが11人いてもチームを作れないが、ハリーが11人いれば作れる。各ポジションに求められる役割を解釈する能力があり、技術面とメンタル面の資質も高い。彼ほどの能力の持ち主であれば、GKを除くすべてのポジションをこなすことができるはずだ」
――イングランド代表にフィットしているように見えますか?
「まだできると思う。もう少しだけだけどね。ハリーは自分を律することができる人間で、黙々とトレーニングや身体のメンテナンスに取り組む。完璧主義者なんだ。試合の前日にPKを100本同じコースに蹴ることもある。彼は成功は努力だけによってもたらされると考えている。
ただ裏を返せば、時に自分の中に引きこもってしまい、チームメイトを鼓舞し、引っ張るというキャプテンとしての役割を疎かにしてしまうことがある。イングランドには一体感を醸成することができるリーダーが必要で、ハリーは周りのサポートがあればそれができる。生まれながらのリーダーという選手がいるが、ハリーはリーダーシップを学びながら、発揮するタイプだ。リーダーに求められる資質は持っている。あとはそれを発露するだけだ」
インタビュアー●ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙のコラム・記事・インタビューを翻訳配信しています。
【W杯PHOTO】現地カタールで日本代表を応援する麗しき「美女サポーター」たちを一挙紹介!