今大会で母国を牽引、準々決勝のオランダ戦ではMOMに選出
カタール・ワールドカップ(W杯)で、アルゼンチン代表は準決勝に進出。あのディエゴ・マラドーナ氏を擁した1986年メキシコ大会以来の優勝に近づいている。今回のアルゼンチンでも、やはりリオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)の個人の能力は際立っている。準々決勝のオランダ戦では、1得点1アシストと全2得点に絡み、ペナルティーキック(PK)戦でもファーストキッカーとして成功。2-2(PK4-3)の勝利の立役者となり、マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)にも選出された。
すでにバロンドールを7度受賞しているメッシは、前所属のスペイン1部バルセロナでもあらゆるタイトルを勝ち取った。そのキャリアで足りていないのが、W杯優勝である。母国の英雄と比較される際も、「W杯で優勝していないから」と、アルゼンチンを2度目のW杯優勝に導いたマラドーナ氏を上と見る人たちは言う。
だが、今回のカタールW杯が9度目のW杯取材であり、人生をかけてアルゼンチン代表を追いかけてきたダニエル・バインステイン記者(アルゼンチンメディア『マルカ・エン・ゾナ』所属)は、仮にアルゼンチンが今大会で通算3度目の優勝を成し遂げても、アルゼンチン国内でマラドーナと同等に扱われることはないだろうと予想した。
今大会のアルゼンチンについて、バインステイン記者は「とても、とても強いチームだ。非常に頭の良い選手たちがそろっていて、メッシというドライバーがチーム全体をコントロールしている。メッシは今大会のW杯に懸けている。これまでの大会の時よりも気持ちが入っている」と言い、オランダ戦後のエピソードを明かした。
「メッシはファン・ハール監督のところに行き、面と面で向かいあって『おまえはクレイジーなのか? 何をしてんだ』と言いに行ったんだ。前日会見で、『メッシを止めるのは難しいことではない』と発言したオランダ人監督が敬意を欠いていたことに不満だったのだが、そんな姿は見たことがなかった」
“神”マラドーナと“赤ちゃん”メッシの違い
キャリア最後のW杯に懸けるメッシだが、悲願を成し遂げた時には、アルゼンチンの人々はマラドーナ以上にメッシを崇拝することになるのだろうか。バインステイン記者の答えは「ノー」だった。
「アルゼンチンの人々にとって、マラドーナは神様なんだ。それに対して、メッシは国民全員の赤ちゃんなんだ。日本にも、そういう存在がいるんじゃないか? 子供の頃から良くしられていて、そのまま大きくなったスター選手だ。マラドーナが神。一方でメッシは国民の赤ちゃん、子供なんだ。マラドーナは、政治面、社会面など、一般へのアルゼンチン人への影響が非常に強かった。だが、メッシの場合は素晴らしい選手であり、素晴らしい父親であり、品行方正で満点なんだ」
そして、「これは私の意見だぞ」と、何度も繰り返してアルゼンチン人の総意でないことを強調してから「テクニック面で、メッシは一歩、二歩もマラドーナを上回っている。私の考えだけどな。私は66年間サッカーを見てきて、今回が9回目のW杯取材だ。現役時代のペレも、マラドーナも見てきたが、技術的にはメッシがベストだ。だが、アルゼンチン人にとって神は、マラドーナ1人なんだよ」と、語っている。
カタールでも、「MARADONA」のネーム入りのアルゼンチン代表のユニフォームをよく目にするが、やはりアルゼンチン人にとって、マラドーナというのは唯一無二の存在のようだ。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)