【識者コラム】ポゼッション型が苦戦するカタールW杯、「時代遅れ」はナンセンス

 カタール・ワールドカップ(W杯)での日本代表の健闘を称える声とともに、次をどうするかという話題も出てきている。選手からは「もう少しポゼッションできるようにならないと」という声もあるようだ。

 今大会はポゼッション型のチームが苦戦している。スペイン代表はその典型だった。保持力は抜群だが得点に結び付かない。準々決勝でアルゼンチン代表にPK負けしたオランダ代表も同じ。0-2から同点に追い付いたのはハイクロスを放り込み始めてからで、それ以前はらちの明かない状況だった。

 日本もジーコ監督の2006年とアルベルト・ザッケローニ監督の2014年にボール保持で主導権を握ろうとするスタイルでグループリーグ敗退の苦い記憶がある。今回と似た守備に軸足を置いた戦い方でベスト16だった2010年のあと、ボール保持のスタイルに変化したように、また同じことが起こるのではないかと危惧するファンもいるだろう。

 このあたり、ちょっと整理しておこう。

 まず、ポゼッション型、カウンター型というのはどちらがメインなのかという話で、基本的にサッカーは全部できたほうが良い。なんでもできるチームでなくてもW杯で優勝はできるが、大きな弱点があればそこには到達できないと考えたほうがいいだろう。

 そして、これは一番間違えやすいところなのだが、ポゼッション型のチームが勝てていないからといって「時代遅れだ」とか「ポゼッションは悪」と考えるのはナンセンスだということ。ボールポゼッションとはチームとしてボールを保持している状態にすぎず、それだけで良いわけでも悪いわけでもない。

 今大会に限らず、ポゼッション型のチームが苦戦する時の原因は古今東西ほぼ同じである。保持しているだけで、その先がないケースだ。

 問題は保持することではない。保持できること自体はむしろ長所である。そこではなく、その先なのだ。また、カウンター型でプレーしたとしてもその問題は残る。ゆっくり攻めようが速く攻めようが、シュートへ持っていく力がなければ同じこと。ポゼッション型のほうがやや問題の程度が大きいというぐらいだろう。

日本の課題は保持ではなく、相手の守備を崩して得点へ持っていく能力を上げるか

 だから日本代表が取り組まなければならない課題は「ポゼッションを増やす」ことではない。保持の時間だけ増やしてもなんの解決にもならない。コスタリカ代表に敗れたのは保持が足りなかったのではなく、崩す手段が三笘薫ぐらいしかなかったからだ。最大の課題は相手の守備を崩して得点へ持っていく能力を上げることである。

 崩し方として一般的なのは「外」から殴る形だ。三笘のドリブル突破が典型だが、守備ブロックに引っかからないように外回りにボールを回し、大きなサイドチェンジも使いながら、サイドで1対1を作って突破してゴールへ迫る。

 もう1つ上級になると、「内」から崩す方法もある。わざと狭いところへ入って相手を圧縮させ、固まったことで生じるスペースを突く。ただし、その前提として圧縮が足りなければ一気に置き去りにできる推進力が必要だ。典型は準々決勝クロアチア代表戦でのネイマールの得点で、2つのパス交換でDFの間を突き破っている。アルゼンチン代表もリオネル・メッシにボールが渡った時だけこれがある。逆にスペインはいくら保持しても推進力がないので外へ逃げるか後ろへ下げていて、日本に追い詰められて失点した。

 繰り返すが、日本の課題は保持ではなく、その先にどういうアイデアを持てるかだ。立場は違うが、スペインも負けたのは保持のせいではない。利き足の右で蹴ってミスしたからといって、左で蹴るべきだったと言う人はいないだろう。両足使えたほうがいいけれども、問題はどちらの足で蹴るかではないわけだ。(西部謙司 / Kenji Nishibe)