カタール・ワールドカップではVAR、オフサイドディレイなど新たなテクノロジーによって進化したフットボールが提供された。

今大会では、PK戦で勝敗を分ける試合が非常に多かった。VARの発達でこれまでなら見逃されたシーンでも後からジャッジされるため、守備陣は気を抜けずPKを後からとられてしまうシーンも散見された。

クロアチア代表GKドミニク・リヴァコヴィッチ、モロッコ代表GKヤシン・ブヌなどPKの活躍によって今大会の主役に躍り出たものもいる。

しかし、この大会ではまだPK戦へ向けてゴールキーパーを変更した監督はいない。だが、PK戦へ向けたゴールキーパーの交代は1つの語られるべきテーマだ。

PK戦用ゴールキーパーの始まりは2014年W杯のオランダ代表

かつて2014年のワールドカップではオランダ代表が延長後半にGKをヤスパー・シレッセンからティム・クルルへ交代しPK戦に備えたという一幕があった。

これはシレッセンがオランダ代表では(当時)PKを16回中16回成功させられており、セーブ率0%だったことから戦術の1つだったと分析されている。

今大会もルイス・ファン・ハールがオランダ代表を率いた。そして、準々決勝でアルゼンチン代表と戦いPK戦にまでもつれ込んだ。だが、正GKアンドリース・ノペルトを交代することなく敗北。2014年とは違い“奇策”をとらなかった。

ルイス・ファン・ハールは本大会に向けてティム・クルルをPK戦練習要員として参加を打診したそうだが、拒否されたという。

「統計上、彼が最も多くのPKを止めたことを知っているので、それは残念だ」

ティム・クルルが練習に参加していればあるいは結果が覆ったのだろうか。

PK戦でゴールキーパーを交代して出場したオーストラリア

カタール・ワールドカップでは見れらなかったが、予選ではすでにオーストラリア代表が戦術の一環として取り入れている。

6月に行われた大陸間プレーオフ・ペルー戦のこと。オーストラリアは、延長後半にマシュー・ライアンからアンドリュー・レッドメインにGKを交代させたのだ。

レッドメインは194cmの長身でさらにPK戦時にはダンスをしたり幻惑する動きを得意とする。

結果としてレッドメインはPKを2本ストップし、ペルーとのPK戦を5-4で制した。オーストラリアがカタール・ワールドカップへ出場したのは周知の事実だ。

レッドメインは後に「PK戦のために準備してきた」ことを告白。そして、チームメイトはそのことを全然知らなかったという。

PK戦とチェルシーGKケパの因縁

反対にPK戦を前にした交代を拒否したケースもある。2019年のカラバオカップ決勝でのこと、チェルシーGKケパはなんと交代を拒否したのだ。

当時チェルシーを率いていたマウリツィオ・サッリ監督はPK戦へ向けてウィリー・カバジェロへ交代することを考えていたが、それを拒否されたため激怒したという。

だが、ケパはチェルシーでの調子があがらず。2019-20シーズンを最後にレギュラーをはく奪された。

そんなケパを救ったのもまたPK戦だった。2021年8月のUEFAスーパーカップでは延長後半にエドゥアール・メンディに代わってPK戦用ゴールキーパーとして途中出場したのだ。結果、ビジャレアルのPKを2本ストップし、優勝に貢献した。


2021-22シーズンのカラバオカップ決勝でもPK戦用ゴールキーパーとして再び登場したが、この際はPKを11本中1本もストップすることができなかったばかりか自身のPK失敗でチームは敗れている。

2026年へ向け PK戦専用ゴールキーパーは当たり前に!?

ワールドカップでPKが厳密にとられるようなったこと、各国の実力差が均衡しPK戦へもつれ込む機会が多いことを考えると今後はPK戦へ向けたゴールキーパーの交代は当たり前になっていくのではないだろうか。

そうなると大きな大会では3人のゴールキーパーの枠の1つをPKストップに長けた選手を入れるチームも登場するのではないだろうか。