日本が大会から去ったあとも、カタールで取材を続けている。

 準々決勝の4試合を観て、改めて気づかされた。分かっていたつもりだったのだが、目の当たりにすると強烈なパンチを浴びた気分だ。

 世界のトップ8が繰り広げる戦いは、ラウンド16からさらにワンランク上のものだった。

 日本が勝ち進んだとして、果たして対等に戦えただろうか。

 個人レベルで言えば、通用する選手はいるだろう。

 ここで語りたいのは、「通用する人数」だ。

 準々決勝でポルトガルと対戦したモロッコは、ラウンド16のスペイン戦でCBのナイフ・アゲルド、左SBのヌサイル・マズラウィが負傷した。ポルトガル戦はそのふたりを欠いただけでなく、60分を前にキャプテンでCBのロマン・サイスも負傷交代を余儀なくされた。

 最終ラインのレギュラーを3人同時に欠きながら、モロッコはポルトガル相手にスキを見せなかった。控え選手がピッチに立っても、チームのクオリティが落ちることはなかった。ベスト4を争うサバイバルで戦えるレベルに、達している選手が揃っていたということだ。

 クロアチアとのラウンド16で、森保一監督は交代枠をひとつ残したまま試合を終えた。ノックアウトステージでは延長戦があり、延長に入った場合はグループステージの5人からプラス1、6人に交代枠が増えるのだが、指揮官は106分のMF田中碧の交代を最後にした。

 久保建英がベンチ入りしていれば、6人目の交代カードとして切ることができたかもしれない。ドリブルで密集へ突き進める彼のスキルは、延長戦ではより効果的だったとも想像できる。発熱でクロアチア戦に帯同できなかったことが、いまなお悔やまれる。

 板倉滉の出場停止も影響したかもしれない。彼がベンチに残っていれば、パワープレーを仕掛ける選択肢も考えることができた(実際にやったかどうかはともかくとして)。

■クロアチア戦、「攻撃のカード」上田、町野、相馬はベンチに残ったまま試合を終えた――

 攻撃的な交代カードでは、FW上田綺世、町野修斗、MF相馬勇紀が残っていた。

 では、彼らを送り出すべきだったのか。

 個人的にはためらう。

 相馬はコスタリカ戦に先発したが、物足りなさを残した。

 上田もコスタリカ戦でスタメンに名を連ねたが、前半だけで交代している。

 コスタリカ戦を経て、パフォーマンスが上がる可能性がないとは言えなかっただろう。本人たちも心中期するものはあったはずだ。しかし、彼らの起用を後押しする決定的な材料はなく、試合の流れに入り切れないイメージが上回るのは否定できなかった。

 町野はグループステージの3試合に出場していない。海外組を含めたチームでプレーするのは、9月の欧州遠征からである。クロアチア相手の1点勝負で、国際経験の乏しい彼を送り込んだとして、果たしてどこまで自分らしさを出せたのかには疑問が残る。

 それならば、疲労感があるとしても主軸を残したままで戦うのがベターだ──森保監督はそう判断したのではないだろうか。

 言いかたを変えれば、ベスト8を争う戦いで「通用する人数」が、日本は少なかったのだ。

■6人のフィールドプレーヤーを使いきれなかった

 今大会の日本はグループステージで交代選手が得点に関わり、5人の交代枠を有効に使ったと評価されたが、26人の登録メンバーで柴崎岳と町野は出場がなく、相馬、上田、山根視来、伊藤洋輝はコスタリカ戦のみの出場に終わった。控えGKの川島永嗣とシュミット・ダニエルはともかく、6人のフィールドプレーヤーをうまく使いきれなかったとも言える。

 勝負のかかったクロアチア戦で、交代カードを1枚残したまま終えたのは、日本の限界を示すひとつの側面だった。ルカ・モドリッチとマテオ・コヴァチッチを延長前半に同時に下げ、イヴァン・ペリシッチも延長後半に交代させたクロアチアとは対照的だ。

 改めて客観的な立場になれば、「W杯のベスト8入り」は相当にハードルが高い。しかし、実現可能な目標を設定するよりも、より高いレベルを追い求めることで、チームとしてのスタンダードは上がる。

「このままでは世界の8強には入れない」とか「ベスト8入りにはこういったものが必要だ」といったやり取りが日常になることで、自分たちの基準、つまりスタンダードを上げていくことができる。

 そうやって考えると、ベスト8入りを逃したからといって、カタールW杯の日本代表を否定しようとは思わない。ただ、世界のトップ・オブ・トップのとの比較で、決定的に足りないものがあったのも事実である。