英国から仰天のニュースが飛び込んできた。
現地10月14日、ロンドンに拠点を置くスポーツ専門のオークション会社「グラハム・バッド・オークションズ」が、ひとつの超レアグッズを出品すると発表した。1986年のメキシコ・ワールドカップ準々決勝、アルゼンチン代表対イングランド代表戦で実際に使用された、唯一無二のサッカーボールである。
【動画】1986年W杯、世界を驚かせたマラドーナの「神の手ゴール」をもう一度!
同社のアダム・ガスコイン氏は、「アルゼンチンのディエゴ・マラドーナが神の手と5人抜きというふたつの伝説的なゴールを決めたゲームであり、0-2からイングランドのガリー・リネカーが返した1点は、彼を大会得点王に導いたゴールだ。まさに、歴史に燦然と輝くゲームをもたらしたボール。250万ポンド(約4億1500万円)から300万ポンド(約5億円)の価値があると考える」と豪語した。
さらにガスコイン氏は「現在はマルチボール・システムが採用されているため、1試合で大量のボールが使用されている。だが当時は違う。試合開始から終了までの90分間、このひとつのボールだけが使用されたのだ。おのずと価値は高まるだろう」と付け加えた。
気になる出品者は、いったい誰なのか。なんと、当時のアステカ競技場で笛を吹いたチュニジア出身主審のアリ・ビン・ナセル氏だ。タイムアップと同時にボールを回収し、その後およそ36年間に渡ってチュニジアの自宅の食器棚に飾っていたという。
なぜ78歳になった今になって売ろうと決意したのか。ナセル元主審は「このボールはフットボールの歴史の一部であり、今こそが広く世界で共有されるべき最適なタイミングだと考えた」と意図を明かし、「落札してくれた方にはぜひお願いしたい。身近に大衆が観られるような場所に保管してほしい」と要望を添えた。「英国はフットボールの母国。競売の地として相応しい」とも語っている。
オークション会社は補足として、ボールがマラドーナ氏の“公認”である点も強調。氏は2020年11月に60歳の若さで亡くなったが、生前の2015年にチュニジアにあるナセル氏の自宅を訪れ、ハグ&キスで再会を祝った。そしてアルゼンチン代表ユニホームをプレゼントし、ナセル氏に対して「君は永遠の友だ」と語りかけたという。“神の手”を見逃してくれた恩人、という位置づけもあっただろうか。
しかしながら、今回のオークションに関しては批判が高まっており、とりわけ英国では大物やファンが怒りの声を上げている。
英メディア『TalkSport』に登場したのはほかでもない、そのアルゼンチン戦で得点を決めた元イングランド代表FWのリネカー氏本人だ。超人気司会者となった61歳は「マジなのか? こんなことが起こっていいのか?」と驚いた様子を見せ、次のようにまくし立てた。
「レフェリーの立場にあった者が記念のボールを現金に換えるなんて、まったく信じられないよ。いったいどういうつもりなんだ。私が(落札して)終わらせようか? よし、私が……するわけないだろ! なんて図々しいんだ。ずっと食器棚に置いておけばいいものを、愚かな決断をしたものだよ。フットボール史において主審が犯した“最悪の誤審”になるだろう」
“神の手ゴール”を認定したうえに、そのボールを売却して利益まで得ようとしていると断じ、あえて「誤審」という言葉を使って皮肉ったわけだ。
さらに英紙『The Sun』はサッカーファンたちの言葉をピックアップして紹介している。
「あり得ない行為だ。マラドーナは我々から勝利をだまし取ったが、偉大なフットボーラーだった。では彼(ナセル氏)はなんなんだ? 恥を知れ!」
「あのボールは劣悪なジャッジを生み出した元凶だ。即刻オークションを中止すべきだね」
「だいたいなぜ試合球を彼が持ち帰ったのかが疑問だし、いずれ売ろうと考えていたに違いない。(カタール)ワールドカップ開幕前で話題も集まるし、高値を期待しているんだろう。愚かな輩だ」
ちなみに36年前のゲームで、マラドーナの青いゲームシャツを手に入れたのが、イングランド代表のMFスティーブ・ホッジである。現在59歳のホッジ氏が今年5月、そのユニホームを競売にかけたところ、スポーツ関連の品として史上最高額となる714万2500ポンド(約11億8500万円)の落札額を叩き出して世界を驚愕させた。
はたして、伝説のボールとなったアディダス社製「アステカ」は想定額の300万ポンドを超えてくるのか。注目のオークションは11月16日に開始される予定だ。
構成●サッカーダイジェストWeb編集部