サッカー日本代表は現地時間17日、UAEでカナダ代表と国際親善試合を行い、1-2で敗れた。やはり注目を集めたのは、遠藤航と守田英正を欠くボランチのパフォーマンス。柴崎岳は先制点をアシストし、途中出場の鎌田大地は調子の良さを見せつけた一方、危機感を抱かせたのも事実だった。(取材・文:元川悦子【UAE】)

●遠藤航&守田英正不在のボランチ

 23日のFIFAワールドカップカタール(W杯)初戦・ドイツ代表戦まで6日。日本代表は17日、本番前最後のテストマッチとなるカナダ代表戦に挑んだ。

 森保一監督は長期離脱明けの浅野拓磨と板倉滉を先発起用し、数日前まで別メニューだった田中碧もスタメンに抜擢。さらには所属クラブで出場時間の少ない南野拓実も頭から送り出すなど、コンディション調整や連係強化に主眼を置いたメンバーで戦った。

 中でも注目されたのは、遠藤航と守田英正不在のボランチ陣。この日はキャプテンマークを巻いた柴崎岳とケガ明けの田中のコンビだったが、彼らは初コンビだった9月のエクアドル代表戦では思うように機能しなかった。遠藤らが万が一、ドイツ代表戦に間に合わない場合、彼らで世界最高峰のチームと対峙できるのか…。それを試す絶好の機会となった。

「(碧は)ボールを受ける場所を探して、活発に動くタイプの選手。自由に動かしてあげて自分は中央に陣取ってバランスを見るようにしていた」と柴崎が言うように、彼は序盤からかじ取り役を担いつつ、田中をサポートしようと試みた。

 その流れから開始8分にいきなり見せ場が訪れる。

 中盤で南野のリターンを受け、ワントラップして縦へ展開。ゴール前に抜け出した相馬にピタリと合い、電光石火の先制弾が生まれたのだ。

 背番号7は自身の真骨頂のプレーが得点に結びついたことで安堵感をにじませ、次のように振り返る。

●柴崎岳と田中碧が振り返るカナダ代表戦

「ショートカウンター気味の攻撃は武器になると思いますし、勇紀がうまく抜け出してくれた。難しいボールだったと思いますけど、よく決めてくれたと思います」

 その後も日本代表は久保建英が左から強烈なシュートを放った19分の得点機など、果敢にゴールに迫っていく。だが、このあたりからカナダ代表の球際や寄せの迫力が増し、ボールを奪えなくなっていった。

 とりわけ、厄介だったのが、右MFダジョン・ブキャナン。彼の縦の仕掛けに久保や伊藤洋輝が翻弄される場面が目立ち、右CKを繰り返し与えてしまう。そこからのリスタートの守備を繰り返す羽目になり、21分には中央のマークがポッカリ空く大きなミスが出る。これをスティーブン・ヴィトーリアに押し込まれ、前々からの課題だったセットプレーで同点に追いつかれたのである。

 結局、前半は相手に主導権を握られる展開が続いた。それでも田中は「自分たちの時間を作れなかったですけど、前半は逆に相手に時間を作らせた時間はなかった」と動じていなかった。

 むしろ敵陣でボールを奪う回数が多かったことをポジティブに捉えていた様子だ。前向きなマインドを持ちつつ、彼はケガ明けとは思えないほど精力的に動き、ハードワークを見せていた。強度的にもW杯で戦える水準を示したのは朗報と言える。

 とはいえ、せっかくボールを奪っても、ゴールに至る形に持ち込めないのは大きな課題。前半45分間のシュート数は日本代表の3本に対し、カナダ代表は12本と大きく上回っている。やはり苦しい展開だったと言わざるを得ない。

●鎌田大地が語る問題「戦術どうこうよりも…」

 森保監督は流れを変えるべく、後半頭から3枚替え。上田綺世や堂安律ら好調のアタッカー陣に期待を寄せた。

 そこで再び輝きを放ったのが柴崎だ。後半5分に見せた左へ移動した相馬へのサイドチェンジなど、縦への意識を押し出し、攻撃の活性化を試みる。11分には鋭いスルーパスで上田綺世の決定機を演出。14分には上田へのパスでポストプレーを引き出し、ゴール正面に抜け出した南野のビッグチャンスのお膳立てもしてみせた。これが入っていたら結果は全く違っていたはず。柴崎の長短のパス出しが試合を通して光ったのは間違いない。

 後半21分から田中に代わって鎌田大地がボランチに入ると、さらに前への迫力が増してくる。それまでボールをもらえず孤立しがちだった堂安も「大地君がボランチに入ったことでちょっとリスクのある縦パスを入れてくれた。あれをやらないとボールを前に運べない。チームもより攻撃的になるし、僕みたいに中に絞るタイプの選手はやりやすくなる」と好感触を口にした。

 鎌田はフランクフルトでこの位置を本職にしているだけあって、デュエルの部分でも敵を凌駕すべく、堂々と戦っていた。

「戦術どうこうよりも今日はデュエルで負ける回数が多かった。球際の部分で負けると戦術どうこうじゃなくなってくる」とベンチで見ている時から課題を感じていた背番号15は、自分が出た場合にはそこから改善していこうと考えていたのだろう。もちろん暑さで相手がバテた時間帯ではあったが、鎌田効果が如実に出たと言っていい。

●「メディアのみなさんが煽るでしょう」

 こうした展開だったからこそ、1点を奪って勝ち切りたかった。最低でも引き分けには持ち込みたかった。森保監督もそういった狙いを持って、吉田麻也を投入。3バックにして守備の比重を高めた。にも関わらず、最後の最後に山根視来がPKを献上。それを決められ、まさかの逆転負けを喫してしまった。

 本番前のラストマッチで黒星というのは芳しいことではない。危機感が募って当然だ。

「課題がたくさん出た試合だったので、修正のし甲斐がある。精神的に追い込まれた状態で戦うことが必要かなと思います。メディアのみなさんが煽るでしょうし、どうぞ」とキャプテンは現実を受け止めていた。

 正直言って、プレスのハメ方や攻守の連動性、攻撃の迫力不足などが見られたカナダ代表戦のような戦いをしていたら、ドイツ代表に勝つのは難しい。わずか数日間で厳しい現状を劇的に変化させるのも難しいだろう。

 ただ、最大の懸案だったボランチ問題に関して言うと、柴崎と田中のコンビは連携や連動性の部分で前進し、柴崎が持ち前の展開力や縦の意識を前面に押し出せるようになった。これは27日のコスタリカ代表戦、あるいはドイツ・スペイン戦の途中からのオプションとしては有効ではないか。鎌田が入ってさらに攻撃的に行く形も含め、新たなバリエーションが生まれたことはプラスと見てよさそうだ。

 しかしながら、守備の強度やデュエル、寄せ、ボール奪取力という部分は遠藤と守田が戻ってこないとやはり難しそうだ。特に遠藤がいるかいないかはチームの成否を大きく左右する。その事実が改めて浮き彫りになった。彼には絶対に戻ってきてもらうしかない。

 幸いにして、遠藤はヘディング練習などを再開している様子で、何とか間に合いそうな雲行きだ。その前提なら今回の新オプションもより有効になる。いずれにしても、遠藤の早期回復を願いつつ、カナダ戦の問題点を整理し、少しでも修正を図っていくしかない。それが成功への唯一の道だ。

(取材・文:元川悦子【UAE】)

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