●驚きだったデ・リフトの起用

FIFAワールドカップカタール2022、グループA第1節セネガル代表対オランダ代表が現地時間21日に行われ、オランダ代表が2-0で勝利している。セネガル代表が押し込む時間帯もあったが、「柔よく剛を制す」ようにオランダ代表が相手の長所を消していった。その戦いぶりは、長丁場を戦い抜くうえで大事な要素になるのかもしれない。(文:加藤健一)
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 個人的には、オランダ代表のサッカーはワクワクするようなものではなかった。ただ、勝ち点3を奪うことから逆算すれば、ある意味合理的であり、効率的なのかもしれない。セネガル代表戦のオランダ代表はそんなサッカーをしていた。

 キックオフの1時間前、両チームの先発メンバーが発表された。今年3月から3バックを採用しているオランダ代表の先発メンバーには、フィルジル・ファン・ダイク、ナタン・アケ、マタイス・デ・リフトの名前があった。

 サディオ・マネが務めていたセネガル代表の左ウイングには、イスマイラ・サールが入るであろうことは戦前から予想できた。マネ同様にスピードに長けるサールと対峙するであろうポジションにデ・リフトを起用したのである。9月はユリアン・ティンバーが2試合ともに先発起用されていただけに、この起用には少なくない驚きがあった。

 ハイラインを敷くのであればティンバーの方がいい。オランダ代表はあえてそこまでディフェンスラインを上げなかったので、あまり現代的ではないような間延びをしていた。

 立ち上がりは、最終ラインがセネガル代表に狙われていた。1分も経たぬうちにイスマイラ・サールがデ・リフトにプレスをかけてボールを奪い、シュートにつなげた。
 最初の10分だけで2回ほど、セネガル代表は高い位置でボールを奪っている。セネガル代表は相手のプレスを攻略していた。

●セネガル代表の長所を消す戦法

 オランダ代表は両ウイングバックとボランチがボールを受けに来るが、前を向かせてもらえない。セネガル代表は両ウイングが外へのパスコースを切りながら3バックの両サイドにアプローチし、ダブルボランチはオランダ代表のダブルボランチから自由を奪った。

 この試合における両チームの共通点は、ビルドアップからの攻撃に苦戦していたことにある。セネガル代表はハイプレスが効果的だったが、オランダ代表の守備の枚数が整ってしまうと、ウイングの仕掛けしか攻め手が無くなる。

 そこでオランダ代表は修正を施す。右WBだったデンゼル・ダンフリースを高い位置に上げ、後ろを4枚にしてビルドアップを開始する。これによって相手のファーストディフェンスをかいくぐり、敵陣までボールを運べるようになった。

 セネガル代表の中盤はボール奪取能力に長けた3人が並ぶ。オランダ代表は2トップに楔のパスを入れるが、CBカリドゥ・クリバリは執拗なマークで自由を与えず、こぼれたところを中盤が回収してカウンターに繋げる。オランダ代表は高い位置で奪おうとせず、即時奪回のプレッシングも機能していないので、余計に間延びしていた。

 しかし、オランダ代表にとってはそれも織り込み済みだったのだろう。セネガル代表がスピード感あふれる攻撃を仕掛けても、5バックなので枚数は揃っていた。即時奪回をするのではなく、リトリートすることでカウンターの威力を吸収していた。

 もちろん、この対応にはGKの活躍も不可欠だった。アンドリース・ノペルトはこの大舞台の初戦が代表デビューだったが、落ち着いた振舞いと素晴らしい堅実なセービングでチームを助けていた。

 オランダ代表は相手の長所を消すことで試合をこう着状態に持ち込んだ。そして、じわじわと追い詰めたうえで最後の一刺しをした。

●これがオランダ代表の戦い方

 オランダ代表は79分、ステーフェン・ベルフワインとステーフェン・ベルハイスを下げ、デイヴィ・クラーセンとトゥーン・コープマイネルスが入る。コーディ・ガクポがトップ下から2トップの一角に移動している。3-4-1-2から3-1-4-2と中盤の位置関係が変化した。

 フレンキー・デ・ヨングが左サイドからインスイングのクロスを入れると、GKの前に飛び込んだガクポが頭で合わせた。オランダ代表に待望の先制点が生まれた瞬間だった。

 シンプルなクロスは前半からいくつかチャンスになっていた。データサイト『WhoScored.com』によれば、コーナーキックも含めて4本のクロスがヘディングシュートにつながっている。先制シーンではボックス内に4人の選手が入っていた。選手交代によりクラーセンとデ・ヨングが高い位置を取れたことも大きかった。

 ディフェンスラインをそこまで高く設定せず、攻撃にあまり人数をかけない。試合をこう着状態に持ち込み、疲労が出てくる後半戦にペースを上げるのがこの日のオランダ代表のプランだった。最大7連戦となる長丁場を見据えた合理的な戦い方だった。

 アリエン・ロッベン、ウェスレイ・スナイデル、ロビン・ファン・ペルシーの3人で攻撃を完結できた8年前ほどの攻撃陣ではないが、CBを中心とする守備は8年前よりも数段堅い。老将ファン・ハールは「柔よく剛を制す」戦い方でオランダ代表を高みへと連れ戻そうとしている。

(文:加藤健一)