ついに幕を開けたカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。11月23日、初戦の相手はドイツ。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はDF伊藤洋輝(シュツットガルト)だ。

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 本大会が約5か月後に迫った6月シリーズで、伊藤洋輝はA代表に初招集された。そこから瞬く間に序列を上げて、W杯メンバー入りを果たした。

 所属するシュツットガルトでは3バックの左を主戦場としており、左サイドバックとセンターバックの両ポジションもこなせることが強みとなっている。

 そもそもの本職はボランチで、リーチを活かしたボール奪取と左足の鋭いパスを武器とする大型MFだった。実際、東京五輪に向けた最初の森保ジャパンの活動であるU-23アジア選手権も、ボランチの選手として招集されており、北朝鮮戦では2アシストを記録している。2019年のU-20W杯も全てボランチでの起用だった。

 静岡県浜松市の出身で、ジュビロ磐田のアカデミーで育った伊藤は、2018年にトップ昇格した当時から大きな期待を背負っていた。だが、なかなか出番が無いなかで名古屋グランパスに期限付き移籍する。

 しかし、大きく状況を変えることができずに、J2降格が決まった磐田に復帰。そこから当時のフェルナンド・フベロ監督にセンターバックで起用されたことが、伊藤にとって大きな転機となった。
 
 鈴木政一監督になってからも、3バックの左から攻撃を組み立てたり、時にはスピードを活かして、ダイナミックに持ち上がって決定的なシーンに絡んだりといった役割をこなしながら、現在に至るベースが築かれた。

 ちょうど監督交代があった2019年の夏に、“ヤットさん”こと遠藤保仁が磐田に加入したことも、伊藤の攻撃ビジョンを高めるうえで大きかっただろう。ただ、やはり戦うステージがJ2ということもあって、東京五輪チームから遠ざかり、翌年になっても一度も招集がかからなかった。

 時を同じくして、2021年の夏にシュツットガルト移籍を決断した伊藤は、自分の実力不足を認めたうえで、欧州でステップアップした先にはA代表があることも見据えていたようだ。
 
「(ドイツに)行く前は正直、トップチームでこんなに試合に出ると思っていなかった」と振り返る。確かに、当初はU-23チームからスタートするはずだったが、トップチームにコロナ陽性者と怪我人が出たなかで、ディフェンスの選手が駒不足になり、渡欧していきなりトップチームに呼ばれる。

 チームメイトとなる遠藤航は東京五輪にオーバーエイジとして呼ばれており、孤独ななかでアピールを続けて、そのままレギュラーに定着した。

「やっぱりドイツはフィジカルの差とか、そこに関しては強い奴が集まっている。そのなかで、組織がしっかりしているチームが強い。何が違うかって言われると色々と違いすぎて、別もんというか(笑)」

 そうした環境において、個人の守備能力と戦術眼を磨いた。
 
 6月シリーズでA代表に初招集される直前に取材する機会があった。その時点でメンバー入りを知らされていたかは不明だが、伊藤は「メンバーに入れば、代表チームというのは国のために戦う」と語っていた。

 その伊藤を招集した理由について森保一監督は、五輪代表の候補として期待をかけていた時に比べて「守備力が格段に上がった」と評価していた。9月シリーズでもそうした資質をアピールした伊藤は、本大会でもセンターバックと左サイドバックのマルチとして想定されている。

 しかし、同じ左利きの中山雄太(ハダースフィールド)が負傷で不参加となり、追加招集もFWの町野修斗(湘南)だったことで、基本的には長友佑都(FC東京)と2人で左サイドバックを担うことになる。左足のキックにも期待だが、やはり森保監督が高く評価してきた対人の守備で、ドイツをはじめとした難敵を封じていきたいところだ。

文●河治良幸

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