1990年のイタリア・ワールドカップで世界チャンピオンに輝いた元ドイツ代表の主将ローター・マテウスとは、旧知の間柄である。彼は母国のTVの仕事でここカタールに来ていた。

 ブラジル対セルビア戦の記者席につながるエレベーターで、偶然彼と一緒になった。日本対ドイツの試合に対する彼の意見を聞きたくて、さっそく質問を投げかけようとした。が、私が口を開きかけるとマテウスはそれを遮り、こう言った。

「君が何をききたいのかはわかっている。ドイツがなんで負けたかだろ?」

 おそらく、何度も尋ねられたのだろう。

「リカルド、君とは昔からの付き合いだ。私が嘘がつけない性分なのは知っているだろ?」

 そう前置きしてマテウスは語り出した。

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「なんでドイツが負けたか。それはあの試合、日本が勝ちに値するプレーをし、ドイツが負けても当然のプレーをしたからだ。日本は伊東(純也)、前田(大然)、南野(拓実)など印象に残るプレーをした選手も多くいたし、後半に用いた戦術は拍手したくなるくらいパーフェクトだった。ボールを持っている時は勇敢で、ボールを持っていない時もマークすることを知っていた。

 一方、ドイツはまるでハイレベルのサッカーを知らないかのような、ひどく凡庸なチームだった。そんなチームがワールドカップで勝つことなどできない。だから日本の喜びに水を差すようですまないが、決してビッグチームに勝ったわけじゃないのだ。

 いわば怪我人相手に勝ったみたいなもんだ。何がドイツチームの『怪我』なのかは、
中の人間じゃないがわからないし、いい加減なことも言いたくない。だがとにかくチームに必要不可欠な大事な要素を欠いていたのは確か。それは『自信』だ。

 この試合に関していえば、日本はドイツより上だった。でもそれは日本の方がチームとして上ってことではない。選手のレベルにしても経験にしてもドイツの方が格段に上だ。その前にサウジアラビアに敗れたアルゼンチンと同じで、調子の悪いビッグチームが、いいプレーするチームに負けた。そういうことだ。

 ただ今後の道のりはアルゼンチンとドイツでは違う。アルゼンチンは残りの2ゲームに勝って、初戦の悪夢を忘れることができるが、ドイツの前にはスペインがいる。道のりは厳しいだろう。とにかく、(グループステージ敗退に終わった)2018年の繰り返しだけはしたくないね。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。

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