2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!

■異文化を尊重する

 さて、そろそろサッカーの話題に戻ろうと思うのだが、誤解されるといけないので一つだけ付け加えておきたい。それは、「僕はイスラームについては大変に敬意を抱いている」ということだ。

 たとえば、旅行先が中東などのイスラーム教国だと(もちろん、紛争地は別だが)、なんとなく安心するのである。イスラーム文化圏は一つの宗教でまとまった社会であり、相互扶助の精神が強い。本来は治安もよいし、人々も慎ましやかだ。

 1999年にワールドユース選手権(現、Uー20ワールドカップ)の取材でナイジェリアに行った時も、北部のイスラーム圏に滞在中は人々が温和で過ごしやすかった記憶がある。

 ギリシャやローマの文明が滅んだ後、その科学や哲学の知識を受け継いだのが、いわゆる中東や中央アジアのイスラーム文明だった。ルネサンス期のヨーロッパは、古代文明の英知をイスラーム諸国から逆輸入したのだ。

 また、イスラームの預言者ムハンマドはマッカ(メッカ)の商人の出身だけに、イスラームは本来は契約を大事にする合理的な思考に基づいている(ただ、1500年前のムハンマドの言葉をそのまま現代に適用しようとするから無理が生じている)。

 僕が批判しているのはイスラームではない。天然資源から生じる巨額な収入を背景に独裁的な支配を行い、富を独占している王族たちのことだ(厳密にいえば、カタールの権力者は“首長”であって“王”ではないが)。「その王族たちの欲や見栄のためにワールドカップが利用され、多くの労働者が搾取されていることがけしからん」と言っているのであって、ワールドカップのためにこの国を訪れた人たちがイスラーム社会の一端に接してイスラームへの理解を深めてもらえれば、それは素晴らしいことだ。

 だから、せっかくドーハに来るのなら、ファンフェスタで騒いだり、スークワキフのカフェで食事するのもいいが、ついでにイスラム文化センターやイスラム美術博物館なども、ぜひ訪れてほしいものだ。

■韓国がポルトガルを破る

 さて、12月2日にグループリーグがすべて終了。13日間、毎日2試合ずつの観戦にも成功。全48試合中、なんと半数以上の25試合を観戦することができた。

 今大会の話題の一つはアジア勢の活躍だろう。

 日本代表がドイツ、スペインに勝利してグループEを首位通過したのは、大会前半を通じての最大のニュースだったが、そのほか、オーストラリアもグループリーグを突破。そして、最終日には韓国もポルトガルを破ってラウンド16進出を果たした。

 開始早々に失点した韓国だが、ポルトガルの拙攻にも助けられて徐々に盛り返してCKから幸運な同点ゴールを決め、そして後半追加タイムに相手CKからカウンター。ドリブルで運んだ孫興民(ソン・フンミン)が3人のDFを引き付け、最後は黄喜燦(ファン・ジチャン)が決めた。

 アジアからは3チームがラウンド16に進出。韓国はブラジルに挑戦することになった。

 アジアのサッカーの進歩も感じるし、それぞれの国の勝敗についてはそれぞれ別個の事情があるが、総じていえばやはりカタールという開催地はアジア勢にとって“ホーム感”が強かった。なにしろ、代表レベルからクラブレベルまで、アジアの各国はカタールの地での戦いに慣れているし、本国からの距離も比較的近い。距離的に遠い南米大陸で開催された2014年のブラジル大会でアジア勢が惨敗したのとは大違いだ。

 もっとも、さらに“ホーム感”が強いはずの中東の3か国(カタール、サウジアラビア、イラン)はそろって敗退してしまったのだが……。