サッカー日本代表はカタールワールドカップの決勝トーナメントに進出。5日に行われるラウンド16ではクロアチア代表と対戦する。

 1日に行われたグループステージ最終戦のスペイン代表戦では、1点ビハインドから逆転して2-1の勝利を収めた。そして、グループEを首位で突破したのである。日本代表が記録したボール支配率「17.7%」は、ワールドカップで勝利したチームとしては史上最低の数字だった。

 5-4-1の布陣でスペイン代表の攻撃に耐えて失点を1つだけにとどめ、後半開始とともに一気にギアを上げて逆転。その後は押し込まれても焦れることなくゴール前を固めて、見事に2010年の南アフリカワールドカップ優勝国から勝ち点3をもぎ取った。

 日本代表はグループステージ第2戦まで4-2-3-1の形でスタートし、ハーフタイムないし前半途中で3-4-2-1にシフトする戦い方だった。指揮官自らが「基本的には4バックでチームを作ってきた」と語る中、それまでの流れを変えてスペイン代表に対峙した背景では、森保一監督流のマネジメントが効果を発揮していた。

 スペイン代表戦で今大会初先発を飾ったDF谷口彰悟は、「5バックでいくことが決まった時に、どう(ボールを)取りにいくか、どうブロックを組むかはスタッフともみんなで話しました。スタッフの指示もしっかり受けながら、選手の意見もしっかり言いながらみんなで作り上げた感じです」と明かす。

 ここに指揮官によるチーム作りの真髄が詰まっている。

 森保監督は「これをやれ」と全てに指示を出すようなトップダウン型の指導者ではない。むしろ積極的に選手たちの意思を引き出し、尊重し、双方の考えをまとめて最終的な答えを提示すうタイプだ。

 ゲームプランには監督やスタッフの意向だけでなく、選手たち側から提案した戦い方も多分に含まれるため、より納得感のある状態でピッチに入ることができる。同時に「自分たちが決めたことだから、しっかりやらなきゃ」という責任感が強まる効果も期待できる。

 もしトップダウン型の監督から「これ」と指定されたことに対して納得できなければどうなるか。モヤモヤの残ったままピッチに立った選手に責任感は生まれないだろうし、チームの一体感が損なわれる可能性もある。

 選手たちとのコミュニケーションを欠かさず、積極的に他者の意見を取り入れてハブとなる森保監督の存在が、今の日本代表の躍進を象徴していると言えるのではないだろうか。スペイン代表戦を前に、キャプテンのDF吉田麻也はこんなことを話していた。

「選手ともテクニカルスタッフとも話し合いをしています。そこはまとまっていると思うので、『やる』と決めたことに対して100%コミットしなければならない。どこでもそうですけど、やるべきこと、プランに沿って全員が愚直に戦えるかどうかがすごく大事。

例えば(かつての)レスター、最近のフライブルクやウニオン・ベルリンなどのように(選手の)能力的に他のトップクラブと違ったとしても、やるべきことが徹底されているチームは崩すことが難しい。そういう形を自分たちが作らないといけないし、ドイツ代表戦はそれを作れたからこそ良さが出せたんじゃないかと思います」

 第2戦でコスタリカ代表に敗れたものの、そこでブレることはなかった。ドイツ代表戦までと同じように喧々諤々の議論を重ねながらチームを立て直し、その先にスペイン代表戦の勝利があったのである。

 森保ジャパンで長く中心を担ってきたMF柴崎岳は「森保監督と選手の関係でいえば、今のバランスは非常にいいものなんじゃないかなと思います。『自分が言ったことを全てやってくれ』という監督ではなくて、共に何かを作っていきたいと、選手の意思を尊重してくれる監督なので、今のところそれは大きくプラスに作用していると思います」と語る。

 現在のチームは「いろいろな人たちといろいろな意思を共有して、尊重して作られていっているもの」であり、「このワールドカップのために、ドーハに入ってからずっと続いてきていることが、試合でポジティブに働いている」というのが柴崎の考えだ。監督と選手の関係性のバランスがうまく機能しているからこそ、「迷いなく試合に入っていける」と感じている。

 一方の森保監督自身も、カタールワールドカップを戦う日本代表に大きな手応えを感じているようだ。グループステージ突破が決まった翌日の取材の中で、「我々のチームであれば、選手がいて、スタッフがいる。スタッフにも、監督、コーチ、広報、メディカルなど、組織の中でいろいろ役割がある。チームのためにそれぞれの役割から責任を全うして、お互いがつながって、チームを機能させて、貢献して、試合に向かう、試合に勝つという考え方が今、合っている気がします」と語った。

 発足から4年強の森保ジャパンは、少しずつメンバーや戦術を変化させながら今に至っている。その過程で、森保監督は「トップダウン」と「ボトムアップ」のバランスを慎重に調整しながらチーム作りを進めてきたはずだ。

 現在のようなバランスに落ち着いたのは、おそらく今年6月の代表活動以降だろう。アジア最終予選を突破してカタールワールドカップ本大会出場が決まる3月までの活動よりも、選手たちの考えがチーム作りに反映される割合が高くなったと感じる。

 その根拠となる要素の1つがシステム変更である。昨年10月、アジア最終予選敗退の危機に瀕した日本代表は、4-2-3-1から4-1-4-1にシステムを変えた。そのまま本大会出場まで4-1-4-1で駆け抜けると、6月シリーズも継続路線で戦ったが、ブラジル代表やチュニジア代表に敗れた。

 そして、9月シリーズから再び4-2-3-1に。ワールドカップ出場国のブラジル代表やチュニジア代表との対戦で力を発揮できず、本大会を見据えた戦い方に関して選手や監督、スタッフ陣で議論が交わされたのではないだろうか。

 ワールドカップ前最後の活動で、アメリカ代表に勝利し、エクアドル代表とスコアレスドロー。4-2-3-1に戻して2試合を戦うまでの流れで、森保監督と選手たちとの関係性のバランスが整った。サッカーにおいて「最後に責任を取るのは監督」という考え方が一般的な中、ピッチ上も含めて一定の裁量権を選手たちに渡すという判断は簡単にできるものではない。森保監督は、ワールドカップで勝つために覚悟を決めた。

 FW浅野拓磨はサンフレッチェ広島時代から師弟関係にある森保監督のマネジメント手腕に感服しきりだった。

「本当に『さすがやな』としか言えないです。僕もスペイン代表戦が終わった後、何回『素晴らしい』と言ったか。監督に対しても、チームに対しても、全部に向けてですけど、それを動かしているのは監督だと思います。言葉で『素晴らしい』と言っても、そんなもんじゃないくらい素晴らしい。えぐいな…というのが正直な気持ちです」(浅野)

 これだけでは抽象的だが、浅野はさらに踏み込んで森保監督の強みを解説する。28歳のストライカーは、難局に陥ろうが批判を浴びようが何事にも動じることなく堂々と采配を振るう恩師に絶大な信頼を寄せている。

「1人ひとりの選手をサッカー選手としてだけでなく、1人の人間として見てくれているとすごく感じています。上手い、強い、速いなどサッカーのために必要なものはありますけど、それ以上に必要なものがないと試合には勝てないということを、日本の皆さんも感じてくれていると思います。(森保監督は)そこをしっかり見てくれていて、なおかつ選手以上にそこを見抜けていると感じます。選手が気づいていなくても、監督が気づいてくれている部分がたくさんあります」(浅野)

 グループステージで貴重な2得点を挙げたFW堂安律は「サッカーは11対11ですけど、僕たちは26対11で戦っているイメージです」と述べた。途中出場が続いていることは「選手としては本望ではないし、嬉しくはない」が、「26人全員で戦っている大会」とフォア・ザ・チームを貫けているのは、森保ジャパンで「意思の共有と尊重」が成り立っているからだろう。

 浅野も、それぞれの立場にかかわらずチーム全員が団結していることを感じながら戦えている。「日本代表でプレーするのは11人だけじゃない。試合に出ている選手も出ていない選手も、負けないために、勝つために何が必要かを常に考えながら、それが行動に出ていると思います。それが自然と一体感になっている。だから全員が一体感を強めようと思って強めているわけじゃなくて、1人ひとりがやるべきことをやっていれば自然と一体感が強まるのかなと思います」と語る。

 森保一監督を中心に一丸となり、選手もスタッフも1人ひとりが強い責任感を持ってチームに尽くせるのが今の日本代表だ。ドイツ代表やスペイン代表に勝てたのも、決して偶然ではない。日本サッカー史上初のベスト8進出も夢物語ではなくなった。

「新しい景色」を合言葉に団結するサムライブルーは、クロアチア代表撃破に向けてこれまで以上に深く激しい議論を戦わせているに違いない。その結論をどんな形にしてピッチ上で表現してくれるか、キックオフの瞬間が待ち遠しい。

(取材・文:舩木渉)

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