“死のグループ”を1位通過した立役者だ。
2−1で逆転勝利したスペイン戦で、左ウイングバックで起用された長友佑都は久保建英と一緒にハーフタイムで交代となった。1点を追いかける展開で、攻撃的な三笘薫を左ウイングバックで起用する森保一監督のプランで、決してパフォーマンスが悪かった訳ではない。
「本当にしびれる、素晴らしい試合をしたと思います。ドイツ戦のように前半で1点取られたんですけど、1点でみんなで我慢して、焦りはなかったですし、後半に勝負をかけるというチームの意思統一がしっかりあった」
長友はそう振り返った。前半の早い時間に失点しても、ピッチ内では「落ち着け」「2点目はないぞ」と言った声が飛び交っていたと長友は言う。0−0の段階では特別に守備的だったわけではないが、2失点目が致命傷になることは認識して「これ以上失点がないように前半は我慢して、後半に攻撃的な選手を投入してドイツ戦のように勝負を仕掛けるというチームのプラン」のために左サイドでタスクをこなした。
「僕のポジションは薫がいるので。90分持たせようと、まずはしっかりと守備をして、我慢をして、攻撃的な選手に代わるというのは、薫が一緒のポジションなので。僕は想定していました」
■スペイン戦で有言実行を果たす
4バックであれば三笘と縦のラインを形成することも考えられたが、3バックの場合は左ウイングバックで三笘とポジションが重なることになる。ただ、W杯の本大会においてライバルというより、一緒に左のアウトサイドを預かる同志という意識の方が強いのだろう。何より”森保ジャパン”を構成する一人であるという自負がそうした発言の元にあるのかもしれない。
「強豪相手の方が、自分たちの強さを発揮できるというメンタリティ、底力を示したし、とにかくこのチームは精神的に本当に強いなと。コスタリカに負けて、本当に3日間皆さんに批判されて、苦しい思いもしましたけど、それでもリバウンド・メンタリティを発揮して。今日(スペイン戦)なんてもう、みんな“メンタル・モンスター”だと」
そう語る長友だが、コスタリカ戦の後に何人かの若手選手に批判的な声が集まった時にはメディアの取材に対して「僕は髪を染めたり、大きなこと、派手なことを言っているので、結果で示せていないのは責任を感じています。一番批判を受けるべきは自分」と語った上で、スペイン戦で必ずグループステージを突破するという意志を強調した。
その時は長友の発言に対するネガティブな論調もあったようだが、スペイン戦の結果をもって、そうした声を発した人たちは何を思うのか。
森保一監督もスペイン戦前日の記者会見で言っていた通り「手のひら返し」はサッカーの常であり、それ自体は代表選手たちも受け入れている。ただし、批判を超えて過剰なバッシングが起きてしまうことも残念ながらある。
■もっとパワーアップした闘魂を注入したい
今でこそ「批判はガソリン」とまで言い切る長友だが、2008年にA代表でデビューした当時、大先輩である中村俊輔、中澤佑二、川口能活といった選手の背中を見てきた。メンタルの浮き沈みが起きてしまいそうな時に「『次だ、全然問題ない』とポジティブな声をすごくかけてくれた」という。そこから3大会の経験を経て迎えたカタールW杯で、長友は心身でチームを支える存在になっている。
「僕はもう『ブラボー』と『コラージョ』と言いまくって、髪真っ赤にして、闘魂注入すると。その役割も大事な役割だなと思っているので。それが実際にどれくらいの効果を示しているのか分からないですけど、それでも僕はこの結果をみんなでつかみ取ったので。もっとパワーアップした闘魂を注入したいと思います」
キャプテンの吉田麻也とはまた違った意味で、チームに情熱を注ぎ続ける長友佑都。ランニングでは先頭を走り、ボール回しでは常にチームを明るく盛り上げる。ただ、個人の選手として強い相手になればなるほど燃える選手でもある。
“新しい景色”への扉を開けるためのクロアチア戦、クラマリッチが出てくるのか、ブラシッチが来るのか。目の前の相手を止めるタスクをこなしながら、チームを前向きに盛り立てていく姿を見られるはずだ。
文・河治良幸
写真/Getty Images