[カタール・ワールドカップ ラウンド16]日本1(1PK3)1クロアチア/12月5日/アル・ジャヌーブ・スタジアム

「明日は最高の試合と最高の結果を得られるように、そして、日本サッカーの歴史に黄金の1ページを刻むんだという意気込みで、必ず勝ちたいなと思います」

 カタール・ワールドカップ(W杯)ラウンド16のクロアチア戦を前に、長友佑都(FC東京)が語気を強めた。

 そして、日本代表は史上初のベスト8にあと一歩と迫った。前半終了間際の43分には、長年の課題だったリスタートから前田大然(セルティック)が先制。今大会初めてリードを得て、後半に突入した。

 そこまではシナリオ通りだったが、老獪なクロアチアは1本のチャンスを仕留めてくる。吉田麻也(シャルケ)と南野拓実(モナコ)の元同僚であるデヤン・ロブレン(ゼニト)のクロスを、イバン・ペリシッチ(トッテナム)に決められ、1-1に。

 そこからは膠着状態に陥り、延長の末、PK戦に突入。そこで日本が立て続けに失敗。4度目となる8強への挑戦も結実せずに、日本のカタールW杯は幕を閉じた。

「後輩たちが新しい景色、未来を見せてくれたと思う。日本サッカーは確実に世界でも戦えるなと、僕は自信を持って言える」

 36歳の長友は気丈にコメントしたが、彼らに8強の景色を見せられなかった若い世代のほうは悔しさがひとしおだ。
 
 その筆頭が冨安健洋(アーセナル)。2019年アジアカップからレギュラーを掴み、吉田や長友らと長く最終ラインを形成しながら、重要なクロアチア戦で失点に絡むというミスをおかしてしまったからだ。

「僕個人のパフォーマンスが本当に良くなかったし、チームに迷惑をかけた。今は自分に苛立ちしかない。感情の整理をつけるのが大変。今は先のことを考える気持ちになれないですね」と、日頃は冷静な彼が怒りに満ちた表情で厳しい自己評価を下したのだ。

 自分自身への不甲斐なさを口にしたのは、近未来の守備リーダーだけではない。先発起用されながらゴールを奪えなかった堂安律(フライブルク)、ジョーカーとして流れを変える役割を託されながら、日本を勝たせられなかった三笘薫(ブライトン)も不完全燃焼感を露にしていた。

「自分が感じたのは無力さ。PK戦の時に自分がピッチにいられなかったのが無力ですし、本当にエースになりたいならば、外しても決めても自分のおかげと思われる人になりたい」と堂安が言えば、三笘も「チームを勝たせられる存在に代表でもならないといけない。ワールドカップで活躍できる選手が良い選手だし、ベスト8に導ける選手だと思う。それを4年間でもう一度、目ざそうと思っています」と溢れる涙を拭いながら毅然と語っていた。

 そして、延長後半からピッチに立った田中碧(デュッセルドルフ)も「ワールドカップには化け物しかいないですけど、次は自分が化け物になって戻って来たい。優勝したいなと思います」と語気を強めた。

 それだけ東京五輪世代にとって今回のクロアチア戦のPK負けは、脳裏に焼き付いて離れない大きな出来事になったのである。

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 森保一監督は東京五輪世代の野心と伸びしろに賭けて、大迫勇也(神戸)や原口元気(U・ベルリン)を外して今大会に挑んだ。しかも本番突入後は、指揮官が4年間、絶大な信頼を寄せてきた柴崎岳(レガネス)さえも使わず、若い力にチームを託した。

 その成果もあって、堂安がドイツ戦、スペイン戦で値千金のゴールを奪い、三笘や田中がグループ突破の原動力になった。彼らの爆発がなければ、ラウンド16まで来ることもできなかったかもしれない。そこは確かに評価して良い部分だ。

 しかしながら、8強を賭けた最大の山場だったクロアチア戦で思うような結果を出せなかった。前田が先制点を奪ったところまでは理想的な展開だったが、期待の冨安、堂安、三笘が不発。出場停止の板倉滉(ボルシアMG)と、体調不良の久保建英(R・ソシエダ)はピッチに立つことさえも叶わなかった。

 肝心なところで日本をけん引できなかったというのは事実だし、力不足だったのは認めなければいけない。これを糧に前進していくことが、彼らに託される使命なのだ。

「世界との距離は縮まっているとは思うけど、それは日本だけではない。自分たちが縮まっていると思える部分もあれば、他のアフリカやアジアの国も縮まっている。結局、ベスト8以上に届くまでの距離はまだあったのかなと。この経験は一生忘れることはないし、4年後、あの経験があったから勝てたな、と言えるようにしなくちゃいけない」という田中の発言が、今の日本の置かれた実情なのだろう。
 
 彼らの世代が中心となる今後は、個々のレベルをより引き上げていくことが最重要テーマだ。「大国は全員がチャンピオンズリーグ上位にいけるようなクラブでプレーしている」と鎌田大地(フランクフルト)も口癖のように言う。そういう環境でエース級に君臨する選手が何人も出てこなければ、クロアチアやイングランドといった8強進出国には太刀打ちできないということになる。

 東京五輪世代の中では冨安がその突破口を開いたが、彼も怪我続きでフル稼働できていない。そういった停滞感を打破し、実績を積み上げることでしか明るい未来は開けてこない。

 長友が「史上最強」と断言した森保ジャパンの若い面々が確実に飛躍し、自信を持って堂々と2026年の北中米W杯に挑んでこそ、5度目の挑戦が結実するはず。その時までは、まだ長いが、長友や吉田らのマインドを引き継ぐ彼らには勇敢に前に進んでほしい。そうしてこそ、今回の悔しいPK負けに意味が出てくるはずだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター)