●「塩試合」からチャンスを作り出す

FIFAワールドカップカタール2022準決勝、アルゼンチン代表対クロアチア代表が現地時間13日に行われ、3-0でアルゼンチン代表が勝利した。アルゼンチン代表を支えているのは、リオネル・メッシを除く全員のハードワークだ。決勝進出へと導いた「アルゼンチンらしさ」とはいったいどのようなものなのだろうか。(文:西部謙司)
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 3-0でアルゼンチン代表が快勝、ファイナルへ進んだ。リオネル・メッシは1ゴール、2アシスト。フリアン・アルバレスは2ゴール、PK奪取と2トップが活躍した。この試合のヒーローはこの2人だが、メッシを除く全員のハードワークが原動力だ。

 アルゼンチン代表は4-4-2で守備をセット、攻撃はサイドハーフのロドリゴ・デ・パウルとアレクシス・マック・アリスターが引いて、両SBを高い位置へ押し出す形。これまでとはやや異なるメカニズムだ。クロアチア代表の守備セットは4-5-1で、攻撃時は両サイドが上がって4-3-3といういつもどおりのやり方。

 アルゼンチン代表の鋭い寄せと激しい球際をいなしていったクロアチア代表がボールを支配していくが、どちらも大きなチャンスのない典型的な塩試合の様相となる。そんな中、アルゼンチン代表が唐突に決定機を作り出した。

 32分、アルバレスがディフェンスラインの裏へ抜け出し、GKドミニク・リバコビッチをかわしたところでリバコビッチがファウルで止めてPKとなった。これをメッシが右上へ豪快に蹴り込んで先制する。

 デヤン・ロブレンとヨシュコ・グバルディオルの間を抜け出したアルバレスの動きが秀逸だったが、この場面ではアルバレスを追走すべきグバルディオルが足を止めていたのが響いている。オフサイドにしようとしたのだろうが、それにしては中途半端だった。ロブレンは背中側に入られていたので対処は難しく、対応できるのはアルバレスを視野に入れているグバルディオルだったのだが、マークせずに放してしまったことが致命傷につながった。

●畳みかけるアルゼンチン代表と修正を施すクロアチア代表

 アルゼンチン代表が畳み掛ける。38分にはクロアチア代表のCKからの攻撃をクリアすると、メッシがアルバレスへつなぎ、アルバレスがハーフウェイラインの手前から一気にドリブルで駆け抜ける。

 ヨシプ・ユラノビッチが対応して足下から離れたボールをつついたが、これがアルバレスの足に当たって跳ね返り、カバーに入ったボルナ・ソサのキックはタイミングが合わずにこれもアルバレスの前にこぼれる。そのままアルバレスが2人を突破する形でゴールして2-0とリードを広げた。

 クロアチア代表にとってはやや不運な失点だが、アルバアスの推進力がもたらしたゴールでもあった。アルバレスの勢いにDFが後退しながらの対応だったことで蹴り返すに至らず、ことごとくアルバレスの前にボールがこぼれている。先制後に受けに回らず、勝負をつけにいったアルゼンチン代表の意欲が実った。

 ハーフタイムに2人を交代、さらに後半開始5分でマルセロ・ブロゾビッチに代えて長身FWブルーノ・ペトコビッチを投入したクロアチア代表は4-2-3-1にシステムを変え、左ウイングだったイバン・ペリシッチを左SBとして攻撃的な構成に。

 アルゼンチン代表は61分にレアンドロ・パレデスをリサンドロ・マルティネスに交代してシステムも5-3-2に変更。反撃を抑えてカウンターという構えになった。

 69分、右サイドのスローインからメッシにボールが入る。グバルディオルを背負いながら、メッシはずるずるとペナルティーエリア内まで運ぶとグバルディオルのマークをはがしてゴールライン際から右足で短く戻し、詰めたアルバレスがそつなくゴール。ダメ押しの3点目となった。

●2つのスタイルが並列するアルゼンチン代表

 今大会で注目を集めた20歳のCBグバルディオルは正確で鋭いパスと強靭な対人守備で、チームのベスト4進出に大きな貢献をした。そのグバルディオルの執拗なマークをふりほどいたメッシはさすがに只者ではない。グバルディオルはすでにイエローカードを貰っていた事情もあり、強引なファウルができない。ボックスに近づくとキープから勝負に切り替えたメッシはそれも頭にあったのかもしれない。

 3点リードで余裕を持ったアルゼンチン代表は、これまで出番のなかった選手を中心に4人を交代。そのままゲームを終わらせた。

 アルゼンチン代表は伝統の攻守両面での球際の強さを随所に発揮している。ブラジルの砂浜のサッカーに対して、アルゼンチンは牧草のサッカーとよく言われる。頻繁にボールが止まるのでコンタクトに強いという表現なのだが、実際にアルゼンチンのフィールドは芝生が深い。ボールが止まりやすいせいか、アルバレスの2点目のように相手の足に当てながら運んでいくドリブルを得意としている。3点目のメッシのアシストもDFを引きずるように運んでいった。

 今回のアルゼンチン代表には華麗なパスワークなど全然ない。随所で戦い続ける力闘型だ。アタッカーの宝庫なのにこういうスタイルを選択するのも伝統で、ディエゴ・マラドーナを擁して優勝した1986年大会もこれだった。

 アタッカーを並べて攻撃重視の編成も一方ではあるのだが、メッシやマラドーナがいるときは力闘型のほうが効率はいいのかもしれない。スーパースターがいれば1点はとれるので、残りの選手のハードワークで最少失点に抑えれば勝機はみえてくる。耐えて粘って天才の一撃で勝つというのが、国民的な感動のツボにもなっている。

 アルゼンチンは攻撃型と守備型の2つのスタイルが並列であるという珍しい国だが、今回はより根強いほうのアルゼンチンらしいスタイルで決勝進出にこぎつけている。

(文:西部謙司)

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