【カタール・ワールドカップ決勝】アルゼンチン 3-3(PK4-2)フランス/現地時間12月18日/ルサイル・スタジアム
 
「この試合おもしれー!なかなかないよこんな展開」

 延長戦が終わるホイッスルが鳴った直後、知り合いの日本人ジャーナリストが興奮気味にそう話しかけてきた。PK戦の前にトイレに向かうと、外国人記者からも「アンビリーバブル!」というワードが少なくても10回は聞こえてきた。

 確かに、ここまでの大舞台で、ここまでのエキサイティングなゲームはなかなかお目にかかれないだろう。現地特派としてルサイル・スタジアムで取材を終えた直後、「史上最高のW杯決勝ではないか」と素直に感じた。筆者は40歳のため1990年大会以降しかリアルタイムで体感していないが、個人的な感触としては間違いなくそうだ。映像を見ると1986年大会以前は実質的に現代サッカーとは違うスポーツであり、参考程度にしかなりえないだろう。

 何よりも勝利が求められるトーナメント戦のファイナルは、いかんせん手堅く地味な内容になるケースが少なくない。W杯のみならずEUROやコパ・アメリカ、チャンピオンズリーグなども同様。W杯も1990年以降の過去8大会を見ても、1-0決着が3回、0-0と1-1からのPK決着が2回だ。

 しかしカタールW杯決勝は、3-3の乱打戦となった。しかもアルゼンチンが前半に2点を先行しながらフランスが後半に追いつき、延長戦でも1-1のドロー。最終的にはPK決着となったが、合計6ゴールが生まれている。1990年以降だと同じく現地取材した4年前のロシアW杯も計6ゴール(4-2)だったが、ほとんどの時間帯でフランスがクロアチアを圧倒しており、ここまで展開が読めないシーソーゲームではなかった。
 
 守備的な5-3-2ではなく勇気を持って攻撃的な4-3-3を採用したアルゼンチンのリオネル・スカローニ、積極的な交代策でチームにエンジンをかけたディディエ・デシャンという両監督の采配はあっぱれ。アルゼンチンは今大会で一度も使っていなかったアンヘル・ディ・マリアを左サイドに張らせる奇策を成功させたうえに、4-4-2を経て再び4-3-3に戻したり、フランスはこれまた今大会未採用の4-2-4で攻め立てたりと、戦術的な多様性も見てとれた。

 もちろん昨今のチャンピオンズリーグで優勝を争うクラブチームと比べれば、プレッシングやビルドアップに組織的な洗練さは見られない。ただ、それをトレーニング期間が限られる代表チームに求めるのは酷であり、今大会は史上最も準備期間が短いというハンディもあった。アルゼンチンとフランスはできる限りのソリューションを見せていたはずだ。

 そして、最も大きな注目を集めていた両国のエースが圧巻のパフォーマンスを見せた。リオネル・メッシとキリアン・エムバペはいずれも全3ゴールに絡む活躍だったのだ。1990年大会のディエゴ・マラドーナ、1994年大会のロマーリオとロベルト・バッジョ、1998年大会のロナウド、2014年大会のメッシとW杯決勝で輝けなかったスーパースターは少なくないが、今大会は2人揃って極上の輝きを見せた。間違いなく試合を盛り上げた大きなスパイスとなった。

 ゴールの多さ、戦術的な多様さ、エキサイティングな展開、そしてスーパースターの輝き。カタール大会のファイナルは、「史上最高のW杯決勝」と呼ぶに相応しいスペシャルなゲームだった。

取材・文●白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)

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