日本代表はキリンカップの初戦で6月10日にガーナと対戦し、4-1で勝利した。ミスによる失点は反省材料だが、ガーナがコンディション的に厳しかったことを差し引いても、ポジティブな要素やアピール材料の多い試合となった。

 山根視来、三笘薫が得点し、久保建英と前田大然に嬉しいA代表初ゴールが生まれた試合で、CFで先発出場した上田綺世にはゴールもアシストもなし。ストライカーとしての立ち位置を考えれば“蚊帳の外”と見られても仕方がない部分もある。

 しかし、その上田もポジティブに評価できる部分はいくつも見られた。CFとしての役割を考えると、周りに点を取らせる動きも大事になってくるからだ。

 鹿島の大先輩である大迫勇也も57試合で25得点を記録しているが、つまりは毎試合ゴールを取れているわけではない。それでも評価と信頼を得てきたのは、チームとして点を取るための基準点としての役割を果たしてきたためだ。

 選手たちは試合前の時点で、ガーナは4バックと想定していたという。実際、これまでアフリカ予選や直近のネーションズカップ予選でも4バックがメインだった。しかし、柴崎岳によると両チームのメンバーが発表されて、アップをしている時にスタッフから「3バックがあり得るよ」と情報を与えられたという。

 日本は4-3-3で前線に右から堂安律、上田、三笘が並び、インサイドハーフに久保と柴崎という並びだったが、相手側が4バックなのと5バックでは取るべき攻め口がかなり変わってくる。中央3人に対してCFは上田が一人なので、いわゆるペナ幅に飛び出していくスペースがほとんど無い。

 その一方で、高い位置では3-5-2、低い位置では5-3-2というガーナのディフェンスは、左右のウイングバックと3ハーフの脇が空きやすく、日本は右なら堂安、久保、右SBの山根でトライアングルを作った時に、必ず一人はフリーの選手ができていた。左は柴崎、三笘、左SBの伊藤洋輝だ。

 端的に言ってしまえば、上田が一人でCBの3人を見る形を取り、左右のサイドから崩しの起点を作りやすくなる構図になる。柴崎も「相手は3バックだったというところが1つ大きかったかなと。必然的にゴール前に人数が多くなる。2センターの時と3センターではギャップができづらかったりとかが違ってくるので」と振り返る。

「スルーパスや縦パスをギャップで受けるというシーンがなかなか作るのが難しいというのがあるので。綺世もその辺はやりづらさを感じたんじゃないかと思いますけど、彼は彼でセンターバックを引っ張る役割とかを意識してやっていたと思います」
 
 その視点で上田の動きを見ると、直接ボールに触っていなくても、彼がピッチにいた時間に日本が挙げた全てのゴールに上田は関わっている。だからこそ点を取ったかどうかだけではない評価基準も必要になってくる。

 29分の山根による先制ゴールは、右サイドでインナーラップ した山根が外にボールを流して久保が折り返し、堂安がワンタッチで出したスルーパスを受けた山根が左足で流し込むという形だった。ガーナは一時的にアンカーのムバラク・ワカソが吸収されて6バックになっていたが、山根はそのワカソとアリドゥ・セイドゥの間を抜けてフィニッシュに持ち込んでいる。

 その時に上田は、ワカソと3バック中央のエドムンド・アッドと右のダニエル・アマーティの間にポジションを取ることで、裏抜けした山根にフリーでシュートを打てるスペースを提供した。そのまま山根が左足で決めたのだが、ここで上田が並のFWとは違う動きをしたことを見逃すべきではない。

 山根がシュートモーションに入る直前に、バックステップしてフリーになっていた。もし山根がここでマイナスのパスという選択をしていたら、フリーでシュートを打っていたのは上田だったのだ。

 中央で相手のCBを引きつける動きは予想通りだし、そこからGKが弾いた場合に押し込む動きも分かる。しかし、ここでボール保持者がパスという選択をした時にフリーで受けられるポジションに動き直せる選手というのはそうはいないだろう。
 
 44分に同点とされた後、すぐに勝ち越し点を決めたのは三笘だ。伊藤とのコンビネーションから右足で巻いたシュート性のクロスがそのままゴール右に吸い込まれたが、上田が裏抜けのモーションを取ったことで、左CBのセイドゥと中央のアッドが引き付けられた。ここは三笘としても、上田か、ファーサイドから堂安が合わせても良いイメージだったと思うが、結局そのままファーサイドに吸い込まれた。

 チーム3点目となる73分の久保のゴールは、左サイドで三笘が縦に仕掛け、そこから中に入り込んで右足で上げたマイナスのボールを久保が左足のハーフボレーで蹴り込むという形だった。

 ここでも上田はゴール前の中央から一瞬でアッドとセイドゥの合間を狙う動きで、手前に久保のシュートスペースを提供している。もっとも、上田としても久保のためにダミーの動きをしたというより、クロスが来たら合わせるという意図を感じさせた。それが迫力となって相手を引きつけていたとも言える。

 その後、上田は80分に交代し、その2分後に前田がダメ押し弾を決めた。

 上田が絡んだ3得点それぞれに効果的な動きが見られた一方で、上田にもゴールチャンスが全くなかった訳ではない。20分には堂安のシュートがブロックされた2次攻撃から、柴崎のクロスに右からヘッドで合わせるシーンがあったが、GKの正面に飛んでしまった。63分には遠藤を起点に久保からボールを受け取り、シュートまで持ち込んだが枠を捉えられなかった。

 鹿島であれば2トップの相棒である鈴木優磨が幅広く起点になることで、上田はフィニッシャーに徹することができるが、日本代表ではポストプレーや相手のディフェンスを引きつける役割を果たしながら、一瞬のチャンスを逃さずにゴールを狙わなければいけない。

 さらに柴崎は「おそらくJリーグでは抜け出せているところで、ガーナの身体能力とか違うものを感じていると思う」と国際試合ならではの難しさも指摘する。さらにガーナが試合前と違う3バックだったことで、日本にとっての難しい部分とやりやすい部分が変わった。上田にとっては難しいシチュエーションだったと言える。

 ストライカーである以上、いかなる状況であってもゴールが求められるものだし、上田も今回の状況が言い訳材料にならないことは人一倍、理解しているはず。しかし、同時に日本代表のFWに求められるタスクを考えると、得点や直接のアシストではない部分も評価するべきだ。
 
 上田は大迫のようなポストプレーヤーではない。しかし、やはり前田や古橋亨梧、浅野拓磨とも違う本格派ストライカーならではの“磁力”のようなものがある。それをチームとして生かして得点することも有効だが、次は周囲が上田に点を取らせる動きをより意識すれば、それが相乗効果に変わってくる。

 正直、彼は今回のフィールドプレーヤーの中では、カタール・ワールドカップに向けて厳しい立場にあると見なされたかもしれない。しかし、だからこそメンバー入りした時には日本が躍進するための重要なピースになるという期待もある。

 14日のチュニジア戦で、どれだけ時間をもらえるか分からないが、その中で今度こそ点取り屋としての能力を発揮してもらいたい。

取材・文●河治良幸

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