東京オリンピックを経由し、カタールW杯へ――。中山雄太は着実にステップアップを果たし、今や日本代表の左サイドに欠かせない存在となった。本大会ではドイツ、スペインといった強豪国との対戦を控えている中、「W杯までにはより成長した中山雄太を見てもらえるのかなと思います」と力強い言葉を残してくれた。
取材・文=林遼平
取材協力=アシックス
オランダ4季目は苦しいシーズンも「すごく成長できた」
――オランダでの4季目を終えました。改めて昨季をどのように振り返りますか?
中山 昨季は降格という結果に終わってしまいました。本当にチームを残留に導きたかったという思いがあったので、悔しい部分はすごくあります。自分の成長、あるいはチームの改善をしていかなければいけないところでは、苦しい状況の中でたくさんのものが自分たちに降りかかってききました。そういった意味では、普通ならば経験できないことがたくさんあったなと感じたシーズンでした。
――レギュラーとして1年間試合に出続けたことによる手応えはいかがですか?
中山 前半戦はサイドバックで出場して、後半戦は3バックの真ん中と、それ自体が僕のキャリアの中であまりないことでした。それによって新しいものを得られたというところと、変わらず自分に課していた課題のところでは、本当にシーズン通してすごく成長できたなと思います。そこは苦しいシーズンだったからこそ、もしかしたら得られるような状況にいられたのかなというふうには思います。
――欧州で長くやり続けたことにより、環境に適応できたところもあると思います。
中山 英語はだいぶ喋れるようになりました。本当にサッカー以外もそうですけど、世界的に見ると英語が喋れれば苦労しません。今後、海外生活に苦しむことはないと思います。やはりコミュニケーションを取ることで、自分の考えをピッチ内外で伝えなければいけないですし、そこの順応は3年半いて良くなったというか、改善された点だと思います。それにプラスして、日本にいる時よりも自分の考えを発さなければ、どんどん切り捨てられる世界なので、その気持ちの強さという部分でも日本にいたときより強くなったと思います。
――もともと日本にいる時から英語は大事だと感じていたと思いますが、海外移籍してより感じたところは強かったですか?
中山 やはり自分が何を考えているかを伝えられない、あるいは相手が何を考えているかわからないと、私生活にも影響が出てしまいます。それが結局、サッカーにも悪影響というか、あまりいいリズムを生まなくなってしまう。喋れなくても仲良くなれるタイプの選手はいると思いますけど、ディティールをこだわる時にはやはり言葉が必要になってくるので、大事にした方がいいなと痛感しました。
――ズヴォレで約3年半プレーしました。海外挑戦の最初のクラブとして選んだチームに対する思いを教えてください。
中山 特別だったなと思いますね。海外最初のクラブというところでは感慨深いです。すごくアットホームなクラブでしたし、日本人の自分が来てもすんなりと受け入れてくれました。あとはホームのような感覚は、僕が所属していた柏レイソルのスタジアムの雰囲気にも似ていましたし、そういったところも僕にとっては大きかったと思います。
――第23節・フローニンゲン戦では、終了間際に同点ゴールを奪いました。あの時の盛り上がりは相当なものがあったと思います。
中山 海外特有の盛り上がり方、ズヴォレというアットホームなチームの雰囲気、その両方が見えたようなシーンだったと思います。
――欧州でプレーする重要性がよく言われる中、改めて海外組となってどんなことを感じていますか?
中山 世界と戦う上で対戦する相手は日本人以外の選手になります。そういった点では、普段から世界の選手と対戦できることを考えると、どうしてもスタンダードはそっちになってくると思います。日本でもそういった部分を意識できるとは思いますが、人間はやはり慣れてくるものです。そこに抗える選手は問題ないと思いますけど、全員が全員そうではないと思うので、そういったところでやはり海外でプレーすることは、僕の中ですごく重要な部分だと思います。
ブラジル戦で感じた差を埋めていくために
――東京五輪が終わってA代表にステップアップしました。改めて、日本代表で戦う意味をどのように考えていますか。
中山 オリンピックが終わって、目指せるものがA代表しかありませんでした。もちろんA代表に入ることはオリンピックの時も目指していましたけど、そこに対する思いはより強くなったと思います。今も続けて呼んでもらうことが多くなりましたけど、僕の中で試合に出ないと意味がないと思っているので、まだまだやれると感じています。そこをしっかりと一日でも早く埋められるような意識でやっていかなければいけないなと思っています。
――日本代表は6月で4試合を行いました。このシリーズをどのように振り返りますか?
中山 やはり4試合の中でもブラジル戦ですね。結果をしっかりと求めた上で敗れた事実は受け止めないといけませんけど、それ以上にこの試合で得たものを今後につなげていかなければいけません。むしろ、あれをスタンダードにしていかなければいけないものだなと思いました。もちろんブラジル戦だけではないですけど、特にブラジル戦が僕の中で大きかったかと思います。
――ブラジルと戦ってみてどんなところが必要だと感じましたか?
中山 全部です。ただ、試合後にも話しましたけど、僕の中では差を感じたのは間違いないのですが、埋められない差ではないなとも思いました。もう僕の中ではその差をどう埋めていくか、どうしていくかという考えがあります。W杯までにその差は埋まると思っていますし、そういった面で差はないという話をしました。本当にあの試合で得られたものは何かと言われたら全部必要だと思いますけど、W杯までにはより成長した中山雄太を見てもらえるのかなと思います。
――今回のシリーズから伊藤洋輝選手が入ってきました。長友佑都選手も含めて代表でのポジション争いをどう感じていますか?
中山 ポジション争いがあってこそチームは成長するものだと思います。それこそ洋輝や佑都くんともそういった話を結構します。お互いにとって自分の立ち位置を脅かさせ続けられるような関係性というのは、今後より高みで続けられればと思っています。自分が成長することでライバルの刺激を受けて成長して、僕もそれにまた刺激を受けてというのが続いていくのかなと思います。
――W杯ではドイツやスペインといった強豪国と対戦します。
中山 楽しみしかないですね。もちろん強いのは間違いないですし、簡単ではないですけど、逆にそれが楽しみだなと。例えばW杯で対戦する相手が全部弱いチームとやって優勝しても面白くないじゃないですか。できれば強豪国の方がいいですし、そういったチームを倒して優勝していく、上に上がっていくというのが、間違いなくやっていてもやりがいがあります。口で言うのは簡単ですけど、今は楽しみしかないです。
世界で活躍することがアシックスへの恩返し
――以前に「すごい選手のスパイクは真似したくなる」と話していましたが、W杯は格好のアピールの場になりますね。
中山 僕の活躍を受けて同じスパイクを履いてくれるというのはすごく嬉しいですし、僕のアピールではなくても、アシックスのスパイクを履く子供たちが増えるのは、アシックスへの恩返しだと思っています。そういった意味では、僕だけの思いで戦うものではないなというのはオリンピックの時も感じましたし、またサッカーの中でも世界一を決める大会ですからね。
――スパイクの話もそうでしたけど、本当に責任、覚悟みたいなものはどんどん高まっていますか?
中山 大会が近づくにつれてそれがどんどん増してくるんだなと思うので、もしかしたらそっちの方がプレッシャーになるかもしれないですね(笑)。
――最後に来シーズンに向けた意気込みを教えてください。
中山 W杯が近づいてくるので、まずはそこを強く自分の中で目標にしたいと思います。自分の中ではまだまだやれると思っているので、しっかりと日々成長しつつ、目指しているものに対して一番良い結果で終われるよう、新シーズンをスタートできるように頑張りたいです。