11月23日のドイツ戦から幕を開ける日本代表のFIFAワールドカップカタール2022。本番まで2カ月に迫り、残された強化の場は19日から始まったドイツ・デュッセルドルフ合宿のみとなった。

 大迫勇也(ヴィッセル神戸)や板倉滉(ボルシアMG)ら主力級の負傷者が続出する中、森保一監督はいかにして勝てるチームを作っていくのか。23日のアメリカ戦、27日のエクアドル戦は極めて注目度の高い2連戦となるだろう。

 この重要なシリーズに満を持して緊急招集されたのが、22歳の進境著しい瀬古歩夢だ。下部組織時代からセレッソ大阪で過ごし、2020年にはJリーグベストヤングプレーヤー賞も受賞したポテンシャルの高いDFはこの1月、初めての海外移籍に踏み切った。新天地はスイス1部の名門グラスホッパー。同じ日本人の川辺駿も在籍しており、適応もスムーズだったのか、昨シーズンはリーグ13試合に出場。異国での滑り出しはまずまずだった。

「東京五輪が終わって、五輪で自分自身、悔しい思いをした中で、もう一段階、成長するためには、違う国に行かないといけないと感じて、移籍に踏み切ったんです」

「スイスは体が大きい選手が多い。自分は全然高い方じゃないし、普通のサイズなので、しっかり頭を使いながら、90分間通してどう抑えればいいかを考えています。よりアラートに頭を使うことを意識していますね」と、本人は駆け引きと状況判断に磨きをかけた様子。自分で食事を作ったり、規律を持った生活を心がけるなど、オフ・ザ・ピッチの部分も大きな変化があったという。人としても急成長を遂げたのは間違いないだろう。

 そして、今シーズンも開幕からコンスタントにスタメンに名を連ねている。主戦場は3バックの一角だが、ここ数試合はボランチもこなし、プレーの幅を確実に広げているようだ。

「(ジョルジュ・コンティーニ監督からの指示は)急にですね(笑)。3枚でやっていた(8月27日のセルヴェット戦)前半がうまくいかなくて、『ナンバー6(アンカー)できるか?』と。その手応えがよかったのか、次の試合(9月4日のヴィンタートゥール戦)からはそこでやっています。中盤は昔、やっていたこともあるけど、また違った環境でのナンバー6。スイスリーグはスペースがより見つけやすいので、プレーの幅が広がるいい機会になってます」と瀬古は前向きに言う。

 板倉が離脱した今、日本代表に必要なのは最終ラインとボランチを両方こなせる人材だ。とりわけ、遠藤航が最終予選途中から担ってきたアンカーのバックアップが薄い分、瀬古には期待が大きい。

 展開力やボールを散らす能力は年代別代表時代から定評があったし、スイスで駆け引きや冷静さに磨きをかけたのだから、いざという時は十分行けそう。そのストロングを今回の2連戦で発揮し、一気に26人枠への滑り込みを果たしたところだ。

「短い時間で自分の持っている力を森保監督に見せて、いい印象を与えられたらいいかなと思います。それに代表には経験のある選手が沢山いて、吸収できることも多い」

「(吉田)麻也君のリーダーシップ、面構えなんかはやっぱりいろんな経験をしてこそ。自分も年齢関係なくトライしていきたいです。トミ(冨安健洋)君にしても、2つしか年齢が変わらないのに、大舞台で普通にやっている。自分のそうならなければいけないと思わされる存在ですね」

 2人の偉大なDFに追いつけ追い越せと、目の色を変えている瀬古。そういう野心や闘争心が前面に出るのは彼のいい部分である。C大阪関係者が「松田直樹二世」と評していたことがあったが、少しヤンチャな一面がありつつも、激しく情熱的なパフォーマンスを見せられるこの選手は、本当にポテンシャルが高いのだ。

 そんな瀬古が千載一遇のチャンスをつかめるか否か…。それ次第で今後のサッカー人生も大きく変わってくるだけに、今、ここでスパートをかけるべきだ。本人もこのタイミングの重要性をよく分かっているはずだ。

「本当にチャンスだなと。シンプルにそれだけですし、こういったチャンスを自分が生かすか殺すかだと。この時間を大切にしていきたいですね」

 吉田、冨安、谷口彰悟というCB陣に加え、マルチ型の中山雄太、伊藤洋輝らがひしめく中で生き残るのは確かに高いハードルではあるが、勢いに乗る22歳の瀬古ならやってやれないことはない。

 U-15日本代表時代から共闘する久保建英とともに、若いパワーを注入して、代表に新たな勢いをもたらすこと。それを彼には強く求めたい。

取材・文=元川悦子