「アメリカ戦はワールドカップ(W杯)に向けて良い準備になるように臨みたい。ただ、ワールドカップ仕様に走りすぎて、『何かを変えなければいけない』という方向にメンタルが行き過ぎて、これまで築いてきたベースが失われないようにしないといけない」
森保一監督が慎重な発言をした通り、9月23日のアメリカ戦は、2か月後に迫った本番を視野に入れつつ、目の前の敵にしっかりと勝つという難題に挑まなければいけない。
今冬のカタールW杯は“冬開催”で直前合宿ができない。準備という意味で難しさはあるが、それは対戦国も同じ。むしろ緻密な準備に長けた日本のほうがアドバンテージがあると言えるかもしれない。そう前向きに捉えて、まずはアメリカ戦を収穫の多いゲームにしたいところだ。
とりわけ、6月4連戦の最終戦・チュニジア戦で0-3の惨敗を喫した守備陣の整備は、非常に大きなテーマ。そのシリーズでフル稼働した板倉滉(ボルシアMG)が左膝内側じん帯の部分断裂を負い、本大会行きが微妙になっただけに、現有戦力で強固な組織を再構築することが早急の課題と言える。
そんなチームにとって朗報なのは、冨安健洋(アーセナル)と酒井宏樹(浦和)の復帰だろう。特に冨安は昨年11月の最終予選・オマーン戦以来の参戦となる。世界最高峰レベルを日々、体感する若きDFが戻ってくることで、キャプテン吉田麻也(シャルケ)の負担は確実に軽減されるはずだ。
ただ、冨安は今季、アーセナルで徐々に出場時間を増やしている段階。どこまで強度を上げられるかは未知数な部分もある。「1、2、3月くらいはずっと怪我をしていて、その時が一番キツかった。今はシンプルにサッカーができて、試合に出られる状態であることを1つポジティブだと思っている」と本人は前向きだ。とはいえ、W杯出場国を相手に120%のプレーができるという確証はない。
だからこそ、彼が今、どこまでやれるのか、吉田とのコンビに問題がないかをしっかり確認する必要がある。そこがアメリカ戦の最初のテーマと言っていい。
酒井に関しても、複数回の怪我から復帰したばかり。百戦錬磨の32歳の右SBは「100%できると思わないと帰ってこない」とキッパリ言い切ったが、代表戦の高いインテンシティを考えると、リスクがないとは言えない。そのハードルをクリアし、W杯本番でも戦える状態に引き上げることが、今の彼にとっての重要タスクだ。
森保監督も2人の状態を入念にチェックしたいはず。アメリカ戦でゴーサインを出せるようなら、本番に向けてのメドが立つ。左SBの大ベテラン長友佑都(FC東京)含め、森保ジャパン発足当初からのベース4枚が改めて確立されるのだ。
ただ、吉田や長友、冨安、酒井らだけでは、本大会のグループステージで対戦するドイツ、コスタリカ、スペインという強豪相手に戦い抜くことができないのも事実。6月シリーズで出ずっぱりだった吉田が、ラストのチュニジア戦で精彩を欠いたのを見れば、特定選手への依存は危険だと言うしかない。
さらに付け加えると、11~12月のカタールは気温30度前後の暑さが続く。その環境を踏まえると、万が一のアクシデントも起こり得る。指揮官の言う「誰が出てもチーム力を落とさず機能する状態」を作っておくことが、W杯成功の絶対条件なのである。
そのためにも、今回のアメリカ・エクアドル2連戦では、谷口彰悟(川崎)と瀬古歩夢(グラスホッパー)の両CBや、マルチ型の中山雄太(ハダースフィールド)、伊藤洋輝(シュツットガルト)らを組み合わせた陣容にもトライすべきではないか。
守備陣をいち早く完成形に近づけたいなら固定メンバーのほうがベターだが、リスクマネジメントも必要だ。そのあたりのバランスを指揮官はどう取るのか。そこも注目点の1つと言える。
こうしてメンバーや組み合わせを入れ替えながらも、守備陣がやらなければいけないのは、行くところと引くところのメリハリを明確につけ、強豪相手でも失点を許さず、攻撃につなげられる攻撃的な守りを見せること。それは長友も改めて強調していた部分だ。
「アメリカは結構、前から激しく来る。そこはドイツと同じ。ドイツがイングランド、イタリアと戦ったデータを見ましたけど、ポゼッション率が60%を越えている。僕らも前からプレスに行きたいけど、簡単に剥がされて持ち運ばれるかもしれない。
それを頭に入れつつ、シチュエーションに応じて前から行くべきか、ブロック作って守ってショートカウンターに行くべきかという部分は、チームでもっと共通認識を持たなきゃいけない。そこで大事になるのは、後ろの選手が堂々と構えて対応することだと思ってます」
確かに最終ラインがドタバタするようだと、チーム全体が崩れかねない。W杯のような想像を絶する重圧や負荷がかかる大舞台になればなおさらだ。それを考えると経験値の高い吉田や長友に頼らざるを得ない部分も少なくないが、アメリカ戦を含む今後のテストマッチでも、できることはあるはずだ。
さしあたって、今回の日本は連動した堅守を見せることから始めなければいけない。3か月前のチュニジア戦のショックを完全に払拭できるような、抜群の安定感を彼らには期待したいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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