蹴球放浪家・後藤健生たるもの、取材が一筋縄ではいかないことは百も承知だ。時には、スタジアムに至る道中でもアクシデントは起こり得る。1986年のメキシコ・ワールドカップの経験は、今年開催されるカタール大会での苦難も楽しい思い出に変えてくれるかもしれないと思わせてくれるのだ。

■カタールW杯の懸念

 カタール・ワールドカップ開幕まであと1か月を切りました。

 観戦のために現地に向かう人たちにとって最大の問題が宿泊料の高騰ではないでしょうか? 僕がドーハでいつも泊まるホテルは宿泊料が5~6000円くらいなのですが、今は6万円近くになっています。

 普通ならロシアとかブラジルといった1つの国で行う大会を、ドーハというたった1つの都市(制度的にはアルラヤン、アルワクラといった周辺都市を含みます)で開催するのですから、無理が生じるのは当然です。

 開幕後は交通渋滞が思いやられます。

 ドーハ市に数十万人の外国人がやって来て市内を右往左往するわけです。大会に合わせて地下鉄(メトロ)が建設されたのでほとんどのスタジアムがメトロで移動可能なのですが、メトロの運送能力には限界があります。

■メキシコW杯の苦い思い出

「渋滞」と聞いて思い出すのが、1986年のメキシコ大会です。

 メキシコ市内ではメイン会場のエスタディオ・アステカのほか、エスタディオ・オリンピコが使用され、隣りのネサワルコヨトル市でも試合がありましたが、カタールと違って同じ日にメキシコ市内で複数の試合が行われることはありませんでした。それでも、渋滞がひどかったのです。

 5月31日の開幕戦は前回優勝のイタリア対ブルガリアの試合でした。ホテルからタクシーに乗ってアステカに向かいました。すると、案の定、ペリフェリコ(環状高速道路)は大渋滞。「開会式には間に合わなくてもいいが、せめてキックオフまでには着きたいものだ」と弱気になってしました。

 しかし、ふと前を見るとブルガリア選手団の乗ったバスも渋滞に巻き込まれてしまっていたのです。どうして警察が交通規制をしなかったのか、いまだに謎なのですが、これで一安心。選手が到着しなければ試合は始まらないでしょう、たぶん。

■間に合わなかった工事

 その後はタクシーは避けて地下鉄でスタジアムに向かうことにしました。地下鉄運賃は全線均一で1ペソ。日本円にするとなんと0.3円くらいです。もちろん、地下鉄は赤字。それを政府が援助しているのです。

 ただ、地下鉄ではスタジアムまで行けないのです。終点タスケーニャ駅からスタジアムまでは直線距離で約5キロほど。その間はバスで移動です。

 実は、メキシコ政府はワールドカップのためにタスケーニャからスタジアムまで軽鉄道を建設していたのですが、工事が大会に間に合わなかったのです。

「間に合わなかった」というのは「その軽鉄道が使えない」というだけの問題ではありません。間に合わない=工事中なので道路が狭くなっているのです。

 従って、ここでも大渋滞が発生してバスはなかなかスタジアムに着きません。

 満員のバスの車内は疲労感と焦燥感と不満が充満して不穏な雰囲気です。おそらく、運転手にも相当のプレッシャーがかかることでしょう。