闘志は常に内に秘め、ひたすらに研鑽を重ねてのワールドカップ代表選出だった。
A代表を、ワールドカップを本気で意識したのは昨年、東京オリンピックの後だったという。4位と悔しい結果に終わったが、高校生の頃から夢見てきた舞台で全試合に出場。しかし大会終了後の最初のA代表招集はなく、ここで相馬勇紀の負けん気に火が点く。
上田綺世らオリンピック代表の同期が名を連ねるメンバーリストの写真を撮り、自らのスマートフォンに保存。今なおカメラロールに残る“ターニングポイント”で、「絶対に最後で取り返す」と妻に誓った。
明けてワールドカップイヤーの始まりは、所属する名古屋グランパスがプレシーズンキャンプでコロナ禍に見舞われ、自身もコンディションが整わないまま開幕を迎え、苦しんだ。転機はチームと同じく3バックへのシステム変更で、ウイングバックのポジションを与えられたことでプレーに幅と奥行きが出た。
「どのタイミングでカウンターに出たらいいか、自分が守備をしていて一番されたら嫌なプレー、相手とのラインの駆け引き。どういうやり方をすればワンツーでかわされないようになるとか、ポジションが変わって成長できた」
相馬といえば爆発的なスプリント力を活かしたドリブル突破が最大の武器だが、守備面や駆け引きの部分が身に付いたことで、プレーが大きくスケールアップしたところがある。
ウイングバックの役割には“副作用”もあり、日本代表では純粋な2列目で起用されることで、より攻撃的に振る舞えるようにもなった。「ウイングバックの経験があるからこそ、そこでまた前よりゴールに近づく回数は増えた」。
貯め込んだパワーを爆発させるように、7月のE-1選手権では躍動し、3得点で得点王に輝くとともに大会MVPまで受賞。この結果も彼にワールドカップを強く意識させるきっかけだったと言い、その後の9月のヨーロッパ遠征での選出にもつながっていくのだから、彼は少ないチャンスでしっかり結果を残すことで、カタールへの切符を手繰り寄せたと言える。
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何せ今季のJリーグではわずか1得点なのだ。「そういった面の評価はあまり高くない」とは本音に違いなく、しかしだからこそ選手としての総合力の向上が際立ってもくる。口癖である「結果を残す」という彼の身上は、「経験は浅い選手たちの野心に期待している」という森保一監督の言葉にも重なり、相馬はさらにこう意気込む。
「まずは自分の立ち位置として、チーム内の序列は低いほうだと思う。そこでどれだけ上を食っていけるかというところと、一人ひとりの危機感だったりが、日本というチームを成長させると思う。どんどんチャレンジして、自分の良さを出して、お客さんではなく、いち選手として、まず練習から戦いたい」
9月の欧州遠征の際には、あまり喜びなどの感情を出さず、淡々と「追い抜くだけ」と話していたが、それは彼なりのセルフマネジメントだったようだ。「サッカーはチームスポーツなので、ただ自分のやりたいことをやっていてはいけない。チームのために戦いながら、自分の良さをそこにどう当てはめていくか」と考え、そのうえで代表チームのトレーニングセッションの一つひとつに全力を尽くしてきた。
すべては「絶対に最後で取り返す」ため。地元のクラブでは“持っている男”とも呼ばれるが、定めた目標に対して全身全霊を尽くせるからこそ、彼は目ざすものを掴んできたのだと改めて思う。運やツキ、星を持っているのではなく、一意専心の行動力を、相馬は持っているのである。
本大会での数字的な目標を聞かれ、起用法もグループステージの状況も不明ななかでは難しいとしながらも、相馬はきっぱりと「1ゴール・1アシスト」と口にした。
なかなか言えることではない。しかし、相馬ならと思えてしまうところもある。そもそもが海外のDFのほうが得意にしている選手であり、Jリーグとの守り方の違いをアドバンテージに代えられるアタッカーだ。
「自分が大切にしてきたのは、目の前の相手に負けないというところ。そこから始まり、そのなかで味方とつながって、攻撃の連係であったり守備の部分がある」。これも森保監督の言う、「個性があり、チームのために戦える選手たち」という今代表の特長に連なるものだ。
名古屋でのウイングバック経験は3バックというオプションに対しても親和性を呼び、森保ジャパンにおける相馬の価値を高めた。シーズンを通して主力として闘い続けたことで、ゲーム体力もコンディションも鍛えられたと言い、ドイツやスペイン、コスタリカが相手でも突破のイメージは膨らんでいる。
「海外でプレーする選手に比べて僕は知られてない。どういう選手なんだってことを相手は感じながらプレーすると思う。特に相手と対峙する一発目で意表を突くというか、相手がびっくりする速さや瞬発力を出せる準備をしっかりして闘っていけたら」
欧州遠征でも、東京オリンピックでも、相馬のスピードは十分な武器として輝いた。ワールドカップが舞台でも、その威力は変わらない。
「Jリーグ代表と括るのはあまり好きではないんですけど、前線にJリーグの選手が一人ということでは、Jリーグの選手でもやれるってことは示していきたい」
狙った獲物は逃さないのが相馬勇紀である。1得点・1アシストの前に誓った言葉は、「世界の相手とも闘って、そこで勝って、日本を勝利に導きたい」。結果をもたらす男の宣言に、我々はただ期待していればいい。
取材・文●今井雄一朗(フリーライター)