いよいよ開幕が迫るカタール・ワールドカップ。森保一監督が率いる日本代表は、いかなる戦いを見せるか。ベスト8以上を目ざすサムライブルー、26の肖像。今回はGKシュミット・ダニエル(シント=トロイデン/ベルギー)だ。
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「エクアドル戦のPKストップは、実は90分の試合の中では初めてだったんです。今まではPK戦のシュートしか止めたことがない。反響はありましたよ(笑)。
ただ、流れの中のプレーを見直すと、ハイボールはもっと遠くへ弾き飛ばす感じでやりたかった。『出る・出ない』の判断基準をしっかりすることが大事。武器である高さを活かすことで、チームを助けられるプレーも増やせると思います」
11月1日の日本代表メンバー発表前最後のテストマッチでMVPに輝いたシュミット・ダニエルは、自らのプレーを冷静に分析していた。一つひとつの物事を冷静に客観視でき、一喜一憂せずに落ち着いて対処できるのが、30歳になった守護神の強み。
その人間力や197センチの世界基準のサイズを含めて、23日のドイツ戦のスタメン抜擢は大いにありそうだ。
森保ジャパン発足時に代表初招集されたシュミットは、J2の熊本や松本などへのレンタル移籍を経て、頭角を現した遅咲きの選手だ。初キャップは2018年11月のベネズエラ戦。2019年アジアカップにも帯同し、それ以降は常連になったが、この4年間は「権田修一(清水)の控え」という位置づけから抜け出せなかった。
もちろん本人の向上心は凄まじく、2019年夏には高みを追い求めてシント=トロイデンへ移籍。代表の先輩・川島永嗣(ストラスブール)のような短期間でのステップアップを狙った。
だが、1年目は怪我でシーズンの半分を欠場。2、3年目はコンスタントに出場したものの、残念ながら今も“ベルギー脱出”は叶っていない。
それでも、速さや強さ、高さを備えた外国人FWとの対峙を繰り返し、反応に磨きをかけたことで、プレーに余裕が生まれたのは確かだという。
こうして着実な歩みを見せたシュミットだが、2021年9月~22年3月の最終予選前半は、まさかの出場ゼロ。招集外の憂き目に遭った。
「(下田崇GKコーチに)落選理由を聞いたことはないですね。実際、ゴンちゃん(権田)が試合に出る理由があるのも分かっていましたし。
下田さんからはシュートが来る前の準備、ルーズボール前の準備などのフィードバックをもらって、すごく意識が変わった。一番の課題だったシュートストップもクラブで良い指導を受けてすごく改善した。成長できた手応えはあります」と、本人はつとめて前向きに言う。
それを森保一監督も認めたのか、4試合が組まれた今年の6月シリーズでは、パラグアイ戦、チュニジア戦の2試合でシュミットを抜擢。「カタール本番では2メートル近い大型GKを使いたい」という思惑が垣間見えた。
シュミットのアピールは必ずしも奏功したとは言えない部分もあったが、彼自身は「僕の理想像はベルギー代表のティボー・クルトワ。見ていてシュートが入る気がしないですから」と強調。スケール感のあるハイレベルな守護神を目ざして日夜、レベルアップに努めている。
エクアドル戦では地道な歩みが結果となって表われた。進境著しい彼を本当に使うのか否か。あとは森保監督の判断次第だ。
「ドイツ戦に出ることになったとしたら、緊張はメチャクチャするでしょうね。でもきっと自信を持って臨めるかなと。永嗣さんはどういう心境だったんだろう……。今度聞けたら、ぜひ聞きたいです」と爽やかな笑顔を見せるシュミットなら、大仕事を果たせるに違いない。
グループステージ初戦のドイツ戦が、今から非常に楽しみだ。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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