欧州組第一号として、11月12日にドーハ入りし、13日の練習から合流したのが、2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)に続く2度目の大舞台に挑む柴崎岳(レガネス)だ。
この日の彼は、長友佑都(FC東京)らと率先して先頭を走り、仲間をけん引。フィジカル、ボール回し、3対3+フリーマンなど全メニューを精力的に消化した。
時には同じスペインで戦う久保建英(レアル・ソシエダ)と談笑する姿も見られ、柴崎なりにチームを盛り上げようと努力している様子がうかがえた。
4年前の16強戦士の大迫勇也(神戸)、原口元気(ウニオン・ベルリン)が落選し、中盤より前に「ロストフの悲劇」の経験者がいなくなるなか、今回の柴崎に託される役割は少なくない。世界が注目する大舞台で、強豪に勝ってベスト8の壁を破ることの難しさを、若くフレッシュな集団にしっかりと伝えていくことが最初のタスクだ。
とはいえ、現時点で柴崎はボランチの控えと見られている。2試合が組まれた9月シリーズの初戦、アメリカ戦に先発した遠藤航(シュツットガルト)と守田英正(スポルティング・リスボン)がファーストチョイスで、柴崎は23日の初戦ドイツ戦はベンチスタートが濃厚か。
ただ、遠藤が8日のヘルタ・ベルリン戦で脳震とうを起こし、田中碧(デュッセルドルフ)は13日の全体練習に合流していない。その現状を踏まえると、17日のカナダ戦は守田・柴崎コンビで挑む可能性は小さくない。新たな連係を構築し、自身の存在価値をアピールする絶好のチャンスとなるのだ。
実際、4年前も開幕直前のパラグアイ戦で効果的な仕事を見せたことで、本番でのレギュラーを確保した過去がある。その流れを再現できれば、まさに理想的である。
「僕が出るとしたらある程度、攻撃的に行きたい局面が多いと思うので、前との関わりを多くして、飛び出しだったり、攻撃で前のほうに出ていくという個人の良さを出していきたいと思っています」
本人は出番のなかったアメリカ戦後にこう語っていた。が、田中とボランチを組んで戦った続くエクアドル戦では、必ずしも強みを出せたとは言えない部分があった。その反省を踏まえ、今一度、本来の自分を取り戻す作業から始めなければいけない。
グループステージの3試合を考えても、アグレッシブに出ていきたい場面は必ず訪れる。27日のGS2戦目のコスタリカ戦はその筆頭だ。そこで柴崎の鋭い縦パスと、一瞬のひらめきが発揮されれば、日本はゴールに近づく。
ロシア大会のベルギー戦で原口の先制弾をお膳立てしたようなキラリと光るプレーを、カナダ戦では大いに期待したいところだ。
2021年10月の最終予選・サウジアラビア戦で失点に直結するパスミスを犯して以来、レギュラーを外れ、この1年間の柴崎は遠藤・守田・田中の台頭をベンチから見る機会が多かった。
自分自身の立ち位置に不安を覚えたことも少なくなかったはずだ。が、そこで自分のエゴを出さず、常にフォア・ザ・チーム精神を前面に出せるのが、彼の良さだ。
9月シリーズの際も、静かにこう語っていた。
「今は本当に難しい時期で、競争とチームワークで感情が折り重なる大事な時ですけど、個人的には日本代表の勝利にプライオリティを置いて、どれだけ行動できるかを常に考えてやっていきたい。いろんな考え方を持った選手がいてもいいと思いますけど、全てはワールドカップで勝利するための準備であってほしいです」
そういった冷静さと広い視野を持つ人間性に、森保一監督は惚れ込んでいるのだろう。2018年9月のチーム発足時から絶大な信頼を寄せ、何かあるとマンツーマンで対話を重ねてきた。
柴崎はそんな指揮官にとっての「最大の理解者」と言っても過言ではない。それを汲み取ったうえで、ピッチ内外から指摘すべき点は指摘し、自分なりにチームを支えていく必要があるのだ。
そのうえで、他のボランチ陣には持ち合わせていないキラーパスや創造性といった部分をどう出していくのか。まずはカナダ戦の一挙手一投足だ。この試合で前向きな感触を残し、本番につなげてほしいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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