2022年カタールワールドカップ(W杯)前最後のテストマッチとなる17日のカナダ戦(ドバイ)が迫ってきた。日本代表は11日から練習拠点「アル・サッド」で事前調整を続けてきたが、最初から帯同しているのは国内組7人だけで、欧州組は15日に合流した選手たちも多い。主力級ながらも試合間隔が短い鎌田大地(フランクフルト)や伊東純也(スタッド・ランス)らはスタメンから外れる可能性が高そうだ。

こうした中、12日深夜にドーハに到着し、13日から練習に参加している久保建英(レアル・ソシエダ)は、比較的良い状態でこの一戦を迎えられそうだ。

「状態は良いと思います。(クラブで)試合もさせてもらったんで、もう準備はバッチリだと思います」と同日の練習後、報道陣に囲まれた彼は清々しい表情を見せた。

10月27日のUEFAヨーロッパリーグ(EL)のオモニア・ニコシア戦で負った左肩脱臼も全く問題ない様子。

「肩だったんで、痛くてもやればいいかなと思ったんで、比較的、楽観視はしてましたけど。この(直前合宿の)期間に良い状態に持っていければ良いと思います」と11月23日の初戦・ドイツ戦までには万全の状態に仕上がる見通しのようだ。

その久保だが、6月4日の21歳の誕生日には「自分の(低い)立ち位置は客観的に分かっている。でも人は3カ月もあれば変われる」とW杯メンバーの当落選上にいることを認めたうえで、半年間に全てを賭けていた。

その言葉通り、今夏、レアル・ソシエダを新天地に選び、開幕ゴールからシーズンをスタート。その後もスペイン1部で10試合先発とハイペースで実績を積み重ねていった。ELの負傷は計算外だったかもしれないが、公式戦3戦を休んだだけで復帰。カタールW杯26人にも文句なしに名を連ね、本番では左サイドのレギュラーをつかめそうなところまで一気に上り詰めてきた。

「環境を変えたことによって、今回はいい方向に転んだのが大きい。レアル・ソシエダっていうクラブが僕をいい選手にしてくれたと思うので、いい監督、いいチームメートに恵まれたことに感謝したいなと思ってます。(W杯メンバー発表も)ラ・リーガで3位のチームでレギュラーで出ている選手が代表に選ばれないことはまずないだろうと楽観視できていた。強いチームで試合に出ることの重要性に改めて気づかされました」

彼は神妙な面持ちでこう強調。過去3シーズンのようにレアル・マドリーからのレンタルではなく、完全移籍で異なる環境に赴いたことで、強い覚悟と決意を持ってサッカーに向き合えたことが大きかったのだろう。

加えて言うと、ソシエダで格上相手に互角以上の戦いを見せる術を体得したことも大きい。今大会で日本が対峙するのは、ご存じの通り、ドイツ・スペインという強豪国。彼らから勝ち点を取らないと上にはいけない。その最適解を久保自身が導き出せる状態にいるのは、森保ジャパンにとっても朗報に他ならないだろう。

「クラブでも決めきれずに悔しい思いをした試合が何試合かあった。代表も必ずチャンスを作れると思います。そのチャンスを決め切って、試合を終わらせるところを大事にしないといけない」と数少ない得点機をモノにすることに久保は集中していくという。

初戦・ドイツ戦をイメージすると、彼が左サイドで出た場合、相手の右サイドにはヨナス・ホフマン(ボルシアMG)やセルジュ・ニャブリ(バイエルン)らが陣取り、右サイドバック(SB)にはルーカス・クロスターマン(ライプツィヒ)やティロ・ケーラー(ウエストハム)といった強力な面々が並ぶだろう。こうしたタレントたちと対峙すれば、日本はどうしても守勢に回る時間帯が長くなる。が、背後を突けたり、ペナルティエリア付近でフリーになれる場面が皆無とは言い切れない。今の久保にはそこを一刺しできる鋭さがある。それは日本にとって非常に力強い要素だろう。

「ドイツのサイドアタッカーは速いのが2〜3枚いて、すごく攻撃に自信を持っている。その分、ある種、エゴもある。規律のちょっとした抜け目のところだったりを僕らが突いていければいいのかな」と若武者も虎視眈々と狙い目を絞り込んでいる模様だ。

21歳とは思えない戦術眼とインテリジェンス、巧みな駆け引きを持ち合わせている逸材が活躍し、日本が強豪揃いのグループを勝ち上がって躍進すれば、日本国内の関心は一気に高まるはずだ。昨今はサッカー人気低迷が懸念されているが、「それを変えるには、自分たちが結果を出すしかない」と久保は良い意味で割り切っている。

「日本は他の国と比べてサッカーに対する熱がないなっていうのを、僕はW杯が近づくにつれて感じています。日本は豊かなので、サッカーでしか成り上がれない国じゃない。今、自分が何かを言ったところでサッカー熱を持ってくれる子供は多くないと思いますね。だからこそ、今大会で強い日本を見せていくのが人気向上の一番の近道。ブラジルやスペイン、ドイツの子供たちはサッカー以外にやりたいことの選択肢が少ない。列強って言われる国に日本がなっていくしか、人気を取り戻すのは難しいんじゃないかと思います」

彼の言葉は実に的を得ている。日本が世界トップ10に入るような国なら、人々は自然とサッカーを見る。そういう環境に変えていくためにも、21歳・最年少のレフティが中心となって歴史を変えていくしかない。

まずは直近のカナダ戦で異彩を放つこと。背番号11にはそこから始めてもらいたい。


【文・元川悦子】