注目されるのは初戦の結果 2強2弱の前評判は覆るか

 客観的にみれば、波乱の可能性が低いグループだ。スペインとドイツが1位、2位を争い、コスタリカと日本が3位、4位となる。これが世界共通の見方で、本命予想となる。

 ただ、日本には欧州各国のリーグでプレイする質の高い選手が揃っていて、コスタリカには14年W杯でベスト8に進出した実績がある。付け加えれば、ドイツは18年W杯でグループステージ最下位になっているし、スペインも14年W杯グループステージ敗退、18年W杯ラウンド16敗退と成績を残せていない。過去の話を持ち出しても参考にならないかもしれないが、“絶対”はない。

 かなり希望的観測になるが、そこまで無風ではなく、ひょっとしたら番狂わせが起こる。それぐらいの可能性はあり、そのためには格下の日本、コスタリカはなんとしても第1戦で勝点を獲得しなければならない。11月23日のドイツ×日本、スペイン×コスタリカがどんな結果に終わるかが注目されるグループだ。

 日本、コスタリカは劣勢を強いられることになるが、押し込まれるとわかっていれば慌てることがなく、集中力を維持して対処できる。日本の最終ラインには吉田麻也、酒井宏樹、長友佑都など経験豊富な選手が多く、どんな展開も慣れている。ケガからの復帰が期待される冨安健洋、板倉滉も身体を張った守備ができるタイプで、ダブルボランチが予想される遠藤航、守田英正も含めて強度の高い守備が期待できる。

 コスタリカも同様で、守護神のケイロル・ナバスを中心に5バックで守備的な戦いをすることに慣れている。代表にはサプリサ、エレディアーノなど国内クラブ所属が多く、子どものころから国全体に浸透する堅守速攻で育ってきた選手ばかりだ。

 戦い方が明確なぶん、日本とコスタリカはドイツ、スペインとの戦いは迷いなく挑める。ただ、首尾よく勝点を取れたとしても、両者にとっては2戦目も難しい。11月27日の日本×コスタリカである。日本は主導権を握ってもいいが、その場合はコスタリカの堅守をこじあけるほどの攻撃力を発揮しなければならず、カウンターへの対策も求められる。

 一方、コスタリカは自分たちでボールを持つ時間を作れるかもしれないが、それは彼らの得意とするカタチではなく、逆にうまく試合を運べない可能性がある。どちらもここで敗戦すると、初戦で得た勝点が水泡に帰すことになる。お互いに勝利が必要な日本×コスタリカは、初戦や3戦目よりもアグレッシブな展開になりそうだ。

スペインが順調なら、実は日本が助かる

[特集/カタールW杯GS展望 GROUP E]死の組であろうと“絶対”はない 日本は世界に波乱を見せつけよ
バルセロナで中盤に君臨するペドリは、19歳と若いながらも経験豊富。そのスキルはすでにワールドクラスだ photo/Getty Images

 ドイツ、スペインにとっても初戦が大事なことに変わりはない。日本、コスタリカとの戦いで勝点を取れないと、2戦目のスペイン×ドイツが天下分け目の決戦となる。初戦に続いてここで勝点を落とすと3戦目も全力でいかなければならず、グループステージを突破できてもその先が厳しくなる。

 ドイツは1トップ候補だったティモ・ヴェルナーが負傷し、W杯参戦は不可能となった。カイ・ハフェルツも所属するチェルシーで好調とは言えず、前線に誰を起用するのか不透明だ。トーマス・ミュラー、セルジュ・ニャブリが過去に1トップを務めたが、W杯でハンジ・フリック監督がどんな選択をするか注目される。

 ジャマル・ムシアラ、レロイ・サネ、イルカイ・ギュンドアンなど、サイドや後方からチャンスメイクできる選手は多い。ミュラーは前線でボールを収められるタイプではなく、ニャブリ、ハフェルツも純粋な1トップという選手ではない。26名に滑り込んだニクラス・フュルクルクという選択があるかもしれない。

 こうした事情を踏まえると、このグループはスペインが優位に立つとみていい。ここ数年で世代交代が進み、ペドリ、エリック・ガルシアなど要所にすでに国際大会の経験がある若い選手がいる。EURO、東京五輪を経験した彼らがW杯でどんなパフォーマンスを披露するか。セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバといった熟練の匠も健在で、攻略の糸口がみつけられない。コスタリカ、ドイツに2連勝し、スペインが早々とラウンド16進出を決める可能性がある。

 そうなると、実は日本が助かる。12月1日の日本との戦いが消化試合になれば、スペインはメンバーを入れ替えてくる。無論、だからといって戦力が大きく落ちるわけではないが、フルメンバーと戦うよりは勝点を取れる可能性が上がる。

 日本にとっても別の意味で消化試合になっていないように、ドイツ、コスタリカとの戦いでやはり勝点が必要だ。改めて言うまでもないが、このグループを突破してラウンド16に進むのはかなり難易度が高いミッションだ。しかし、日本が目標に掲げる「新しい景色」はその先にある。波乱を起こす強い気持ちがなければ、波乱は起こせない。世の中に“絶対”はないということを、世界に示してほしい。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)275号、11月15日配信の記事より転載