長らく日本のサッカーは、「個では勝てない」と言われてきた。「個では勝てないから組織で」と言われ、「常に数的優位をつくって相手の個を防ぐ」という考え方である。そんな日本のテーゼ(哲学)を変えてくれる男が登場した。それが三笘薫だ。「日本にミトマあり!」。あと数年もすれば最も有名な日本人プレーヤーになる可能性を秘めている三笘とはどんなプレーヤーなのか?

【映像】三笘薫は止められない プレミアリーグを席巻する異次元スピード

1997年生まれ、現在25歳。最も脂が乗り切る年齢である。幼少時から地元川崎でフロンターレに加入。U12からU18までフロンターレでプレーしながらも、大学進学という異色のコースを辿る。筑波大学ではユニバーシアード日本代表に選ばれ、2020年に満を持してフロンターレに入団。新人でいきなり2桁得点をあげ、J1のベストイレブンにも選ばれた。まさに「彗星あらわる!」といった感じだ。

Jリーグで1年半プレーした2021年夏、東京オリンピック終了時にイングランド・プレミアリーグのクラブ「ブライトン」に完全移籍。労働ビザの影響でベルギーのユニオンにレンタル移籍されるが、ここで「三笘」は「MITOMA」になった。

ヨーロッパの平均的なベルギーディフェンス陣を完全に翻弄したのだ。日本人の個が輝いた瞬間である。1年間のベルギーでの戦いを経て、今年の夏にいよいよプレミアデビュー。当初はサブ扱いであったものの、徐々に存在感を現わし、W杯開始直前のウルバーハンプトン戦では念願の初ゴールをあげている。

三笘の主戦場は左サイド。ボールを置く位置は右足の外。彼の間合いに入れば相手DFは「わかっていても止められない」ゾーンに陥ってしまう。リヴァプールのアレクサンダー=アーノルドさえもこの間合いについていけずに三笘に左サイドを幾度も破られた。

狭い空間を苦にしない、独特の間合いとフェイントで相手重心を動かし、動いた瞬間に右足で切り返すと、一気にスピードを上げてゴールライン直前までボールを運ぶ技術は、まさにワールドクラスと言っても過言ではないぐらいだ。

加えて彼はドリブルだけが得意な「ワガママプレーヤー」でもない。顔を出した味方には絶妙のパス出しもするし、自身のドリブル体勢を囮にして、走り込む味方へのスペースも提供する。相手からみれば本当に厄介だろう。相手の数的優位を一瞬にして粉砕するスカッド==それが三笘(MITOMA)なのだ。

そんな三笘は、プレミアリーグでも出場するたびにアジャストしていく。

ニューカッスル戦84分、ペナルティ付近でボールを保持すると、独特のステップで間合いを図りそのままボックス内に侵入。右へ持ち出すと見せかけるステップを入れてゴールラインをギリギリまでえぐってマイナスに入れる。

リヴァプール戦では71分。アレキサンダー=アーノルドとの1対1のマッチアップ。完全に抜き去り、カバーに入ったサラーをかわしてゴールラインをえぐる。最後は三笘一人にリヴァプールDFは5人も対応していた。

同じくリヴァプール戦、11分後の82分。左ペナルティ付近で一瞬の隙を突きマティップの前に走り込み、そのまま左足で振り向きざまのマイナスクロスでトロサールの同点ゴールを生んだ。

トットナム戦の62分。ペナルティの左角でボールを持つと、いつもの“縦”に行くと見せかけてフェイクを入れながらスルスルと右足でカットイン。3人を引き剥がしたところで、お得意のゴールラインへ侵入。最後はGKが出てなんとか食い止める。

チェルシー戦では4分。敵陣で味方が引っ掛けたボールに中央で素早く反応。得意の左足にコースをとり、相手を引きつけるだけ引きつけて足が出てきた瞬間にパスを選択。トロサールの先制ゴールを演出した。

ウルバーハンプトン戦は圧巻だ。9分に、三笘が左ペナルティ角でボールを持つとドリブルに対応しようとしたDFの狭い間を右足アウトでスルーパス。先制ゴールを御膳立てした。43分には味方のクロスにファーの位置からヘッドで競り勝ち待望のプレミア初ゴール!そして続く46分には味方ロングフィードに裏抜け一発のトラップで完全に身体を入れ替えた。
相手セメードはたまらず抱え込み一発レッドを食らう。仕上げは83分。ペナルティー内の斜めの動きからいつもの左サイドをえぐり、ツータッチで相手を置き去りに。マイナスの折り返しで3点目の決勝点の起点となった。この試合は3点全てに三笘がからみ、チームの3-2の勝利に大きく貢献した。

三笘のプレーには多くの人が絶賛のコメントを残している。

・「三笘は相手のレッドカードを誘発させ、ゴールも決めた。日本代表9試合で5ゴールを決める攻撃力を証明した」米メディア

・「監督の先発起用を正当化させたプレーを見せた。三笘は脅威であり続け、相手は三笘を全く扱うことができなかった」英メディア

・「三笘の25年のブライトン契約切れを早くもドルトムントが狙っている。その時はもっと三笘は大きなディールを手にするかもしれない」伊メディア

三笘がプレー時間を重ねれば重ねるほど、彼を絶賛する海外メディアの扱いも多くなってきているようだ。

三笘の日本代表内の位置付けは、まだ絶対的なレギュラーには至っていない。代表のキャリアがまだ浅いというのもあるが、三笘を「後半のジョーカー」として扱いたいという欲望が監督に沸くからだろう。確かに「よーい、ドン」の先発使いよりも、相手DFの足が止まった状態で三笘を投入すれば・・・ワクワク度は一気に倍増するだろう。

1点ビハインドを負っているときのラスト20分の三笘の投入。あるいは0−0で勝ちを獲りに行くときの三笘の投入。どれも十分な理由がある。

先発で90分間の時間を三笘に与えて相手を粉砕する。後半の勝負どころで三笘を使って相手の息の根を止める。つまりどちらでも、日本代表にとって三笘は欠かせないピースなのだ。W杯での活躍が三笘の評価を急上昇させるかもしれない。2002年の中田英寿のように、世界に「MITOMA」の6文字が踊る日がくるかもしれない。世界の頂点に駆け上がる、三笘にとってカタールW杯はその一里塚かもしれない。とにかく我々は三笘から目が離せないのだ。

文:橘高唯史

(ABEMA/プレミアリーグ)