森保ジャパンの4年4か月の集大成となった11月23日のカタール・ワールドカップ(W杯)初戦・ドイツ戦。前半は開始早々の前田大然(セルティック)の一撃がオフサイド判定で取り消され、ラストの彼のバックヘッドが枠を越えた以外、日本は全くと言っていいほどシュートを打てなかった。

 ボール支配率は8対2と圧倒され、一時はGK権田修一(清水)を含めた9人が自陣ペナルティエリア内に入って必死に守る状態。31分に権田がダビド・ラウム(ライプツィヒ)に与えたPKは微妙な判定であったが、イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・C)に決められた1点のみに抑えたのは、むしろ御の字だったと言えるかもしれない。

「1点入れられた時、(南野)拓実(モナコ)と(堂安)律(フライブルク)と一緒に座ってましたけど、『0-1ならイケる』と3人で話していた」と浅野拓磨(ボーフム)が打ち明けたが、背番号10は重要な初戦でスタメン出場できない悔しさを噛みしめつつ、「ここ一番で結果を出す」とギラギラした感情を胸に秘めていた。

 迎えた後半。森保監督の3バック変更という大胆采配が奏功し、日本は徐々にドイツを押し込んでいく。70~71分の権田の“4連続神セーブ”、直後の堂安の投入で一気に流れを引き寄せる。

 さらに75分、南野も満を持してピッチへ。酒井宏樹と交代して陣取ったポジションは3-4-2-1の左シャドー。リバプール時代にはしばしばトップで起用され、今季のモナコでも何度かトップ下に入るなど、中央寄りの位置でプレーした経験がプラスに働いたのか、彼にはゴールへの道筋が明確に描けていたのだろう。
 
 それが直後に結実する。左ウイングバックの三笘薫(ブライトン)がスルスルとドリブルで持ち上がり、ニクラス・ジューレ(ドルトムント)とレオン・ゴレツカ(バイエルン)が寄せてきた瞬間、背後に生まれたギャップを見逃さずに縦パスを入れた。

 これにペナルティエリア内で反応した南野が、角度のないところから左足を振る。ドイツ守護神マヌエル・ノイアー(バイエルン)が弾き、目の前に詰めていた堂安がリバウンドを押し込んだのだ。

「薫がボールを持ったら何か起こしてくれるというのは感じてたし、ホント、最高のタイミングでパスをくれたんで。でも中の状況は見てなくて、速いシュート性のボールを打てば、GKが弾いて何か起きるだろうと。そう信じて振り抜いて、律がしっかり決めてくれました」と南野は登場直後のファーストタッチで同点弾を演出するという値千金のプレーをこう振り返っていた。

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 試合終盤の極めて難しい状況で登場し、短時間で大仕事をやってのけたのは、リバプールやモナコでのジョーカー経験が大きいだろう。強豪クラブでは必ずしも恒常的に先発で出られるとは限らない。控えに回った場合には、わずかな時間で目に見える結果を残さなければいけない。

 その立ち位置を「出番がない」「序列が低い」と酷評されることも多いが、南野は南野なりに集中力をマックスに高め、チームを勝たせる術を身に着ける最大限の努力を払ってきたのだ。

 加えて言うと、ゴール前で鋭く飛び出し、角度のない位置から左足シュートを打ち切るという高難度のプレーも南野ならでは。「研ぎ澄まされた得点感覚」を、彼は日本の勝敗を左右する重要局面で遺憾なく発揮したのである。

「どういう準備をしている選手がビッグマッチで試合を決めるかっていうのは、自分の中で分かってるつもり。シーズンを通しての流れとか数字とかじゃなくて、サッカーってもっと感覚的なところがあると思うんですよね。だから自分の今までのパフォーマンスとか、チームの状態とか全く考えてなかった」と、彼は無心で自分らしさを体現したという。

 この1点がチームに大きな活力を与え、浅野の2点目につながり、日本は歴史的大金星を挙げた。南野自身は森保ジャパン発足時からの主軸、かつエースナンバーを背負う人間でありながら、先発落ちの悔しさ、チームの勝利に貢献できた喜びが複雑に入り混じるなか、冷静に先を見据えていた。

「今日はもしかしたら、自分のサッカー人生で思い出に残る代表の試合やったんかな」という本人の言葉からは、10番の重荷をほんの少し下ろせたという安堵感も垣間見えた。
 
 これでようやく明るい兆しが見えてきた南野。堂安、浅野にしてもそうだが、ベンチパワーのあるチームでなければ、史上初のベスト8の壁は越えられない。彼らはグループ突破の可能性がある27日の次戦・コスタリカ戦ではスタメン抜擢も十分あり得る。

 ここからさらに調子を上げていき、ドイツ戦の主力組を脅かす存在感を示してくれれば、チームの選手層は分厚くなる。

 そうやって前向きな方向に進んでいけば、日本は本当に「新しい景色」を見られるかもしれない。さしあたって南野にはW杯初ゴールという壁を越えるべく、貪欲に突き進んでもらいたい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)