[カタール・ワールドカップ・グループステージ第2戦]日本 0-1 コスタリカ/11月27日/アフマド・ビン・アリ・スタジアム

 コスタリカ戦は0-1で敗戦。いろんな見方があると思うけど、まず1つは、ドイツ戦からスタメンを5人、変更したことで、チームとしての力が落ちてしまったところはある。日本の選手たちの一人ひとりの能力は間違いなく高い。でも、それが“足し算”にならず、コンビネーションの部分で物足りなかった。

 コスタリカはのらりくらりといった様子で、想定していたより攻めてこないとか、速攻で行けそうなのにスローダウンしたりとか、ボールをこねくり回したりとか。そういう相手に対して、日本はなかなかリズムを出せなかった。

 初戦のドイツは分かりやすかった。しっかりポゼッションして、ほとんどロングボールを蹴らず、足もとに入れてくる。そのイメージ、勝利したドイツ戦のイメージが強かったか。コスタリカは、真逆だった。日本はそのギャップに苦しんだのかもしれない。頭の中のイメージと、実際に起きている現実がマッチしなかったというか。

 それと、おそらく日本は前半の早い時間帯に1点が欲しかったのだと思う。それで少し焦ってしまったように見えた。先に点が欲しい、気持ちを楽にしたい……。

 前半は、コスタリカも失点したくないので守り重視になっていた。だから日本も0-0でも全然問題はなかったはず。初戦で日本は勝っているし、逆に、コスタリカはスペインに0-7で大敗。彼らにとって日本戦は“勝たなければいけない”ゲームだった。でも実際は、日本のほうが焦っているように見えた。スペインが7点を取ったんだから、自分たちも点が取れる。前半から点を取っていなければいけない。そういった考えがプレッシャーになっていたのかもしれない。 
 
 早く1点を取って、楽になりたい。そういう精神状態で、一人ひとりが普段、やらないようなプレーや判断をする。それでパスがズレて、判断が遅れて、周りとの連係が合わなくなる。それが悪いほうに連鎖してしまう。

 みんながみんな、考えすぎてしまっていたのではないか。前半に長友が右足のアウトサイドでスルーパスを出した。これには驚いたと同時に、納得もした。ああ、やっぱりな、と。長友は普段、そんなプレーはしない。少なくとも僕はほとんど見たことがない。誤解を恐れずに言えば、本来の長友のプレーではないと思う。 

 でも、右足アウトでパスを出した。本人もいろんなことを考えていたのだろう。僕も現役時代に同じようなプレー、判断をしてよく岡田さん(武史/元横浜、日本代表監督など)に怒られた(笑)。 

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 今の日本代表は、前から追いかけていって、ボールを奪ってからのショートカウンターで強さを見せる。でも、自分たちでボールを握った時は、アジア予選を通じても、あまり良さを出せていなかった。格下相手にポゼッションで優位に立っても、1点を取るまでに手こずっていた印象がある。

 コスタリカ戦でも、そうした傾向が見て取ることができた。奪ったあとに速く攻められなかったし、選手同士の距離感も今ひとつ。一人ひとりの、ああしたい、こうしたい、ああしたほうがいい、こうしたほうがいい、というのがまとまり切れていなかったように思う。

 コスタリカは前半、日本のプレッシングを回避するために、左サイドから何本か長いボールを蹴ってきた。脅威となる攻撃ではなかったものの、遠藤と守田の両ボランチがセカンドボールに備えるために、少しだけ下がった。

 これで、前から行きたい攻撃陣と、ロングボールを警戒する守備陣とが多少、間延びしてしまった。ボールを奪うためのアクションが少なからず停滞。ディフェンス面でもノッキングする時間帯があった。

 後半は選手交代などを含めて、攻勢をさらに強めたが、なかなかコスタリカの堅い守備をこじ開けられない。攻めあぐねていると、81分、一瞬の隙を突かれて先制を許す。
 
 左サイド、相手のふわりと浮かしたパスを伊藤がヘッドでクリアする。こぼれ球を、吉田がダイレクトで少し前にいる守田へ浮き球のパス。これを守田が支配下に置けず、相手にボールが渡る。そこからペナルティアーク付近にいたフレールにパスが通り、左足のシュートを決められた。

 失点の場面は、吉田が一番分かりやすくフォーカスされるだろうけど、その前段階でも気になるポイントがあった。

 まず、伊藤がクリアした相手のパス、それを簡単に出させていたのが気になった。タッチライン際で、ボールをキープする敵を三笘は監視していた。でもそれは文字通りの“監視”であって、“奪う”ではなかった。


 
 伊藤の対応も、結果的に良くなかった。フレールにパスが出た瞬間、伊藤はオフサイドを取ろうと前に出た。でも、その試みは奏功しなかった。

 見過ごせない理由は、オフサイドを取りに行く守備というのは、失点のリスクがかなり高くなるから。オフサイドを取れなければ、入れ替わられて、決定的なピンチになる。オフサイドを取りに行くのは、ある意味、一番失点しやすい行為でもある。この大会でも、こういった場面は数多く見られる。 

 現役時代、岡田さんから「オフサイドで逃げるな」と、よく怒られた。「ラインを上げるのはオフサイドを取るためじゃない。コンパクトにするためだ。勘違いするな」と。

 なぜ、伊藤はオフサイドを取りに行ったのか。1つ考えられるのは、フレールがパスを受けた時点で、間に合わないと判断したから。もしそうであれば、事前のポジショニングでもっと絞っておくべきだった。少しでもフレールの近くにいれば、また違った対応があったはずだ。

 吉田に関しては、まさにこの日の日本の象徴だったように思う。こぼれ球の処理で、クリアではなく、パスを選択した。これがドイツ戦であれば、味方につなげられなくても、失点を回避するために、おそらく大きく蹴り出していたのではないだろうか。でも、コスタリカ戦は“勝たなければいけない”試合。まだ1点も取れていない。ボールを大事にして、攻撃につなげたい――。
 
 だが、結果的に失点につながるプレーになってしまった。仮定の話になってしまうが、クリアという判断をしていれば、最低でも勝点1は取れていたかもしれない。

 手痛い敗戦だった。コスタリカがどうこうより、日本は自分たちで崩れてしまったと思う。

 いずれにしても、コスタリカ戦はもう終わったこと。課題として持ち帰るのは、ワールドカップが終わってからでいい。今、振り返ったところで、コスタリカとまた試合をやるわけでもない。

 次の相手はスペイン。ドイツ戦と同じメンタリティで臨んでほしい。勝つためのプレーをチーム全体で遂行して、勝点3を掴み取ってほしい。

【著者プロフィール】
中澤佑二(なかざわ・ゆうじ)/1978年2月25日生まれ、埼玉県出身。元DF。三郷工技高を卒業後、ブラジル留学を経て、1999年にV川崎に加入。2002年に横浜に移籍し、同クラブで2018年に引退。J1通算593試合・53得点。99年に新人王を受賞し、ベストイレブンには6度選出。2004年にはMVPに選ばれた。日本代表でも際立つ実績を残し、通算110試合・17得点。ワールドカップには2006年ドイツ、2010年南アフリカと、2大会連続で出場した。現役引退後は解説者、番組MC、モデル、ラクロスの指導者など、幅広いフィールドで活躍中。自他ともに認める安室奈美恵の大ファン。