スペインサイドから見てまず留意すべきは、自分たちの弱点が、日本にとっての長所である点だ。スピード豊かな攻撃陣を抱える日本に対し、スペインは守備面で裏のスペースのケアを課題にしている。つまりスペインが最も回避しなければならないのは、日本の攻撃陣にSBの背後を狙われ、アンカーが振り回されるシチュエーションとなる。

 日本は攻撃面において二つの顔を持ったチームだ。得意なのは、ボールを奪って、素早く攻撃に転じる形。一方、コスタリカ戦がそうであったように、守りを固められると攻めあぐむ傾向が顕著だ。日本からすれば、高いボールポゼッションで主導権を握るスペインは、その得意のカウンターを繰り出す余地がある相手と言える。

 スペインがSBの背後を狙われやすいのは、4-3-3の構造上の問題とハイプレス&ハイラインを徹底する攻撃的なサッカーと関係がある。自ずとボールロストすると、カバーリングに回れる中盤の選手がアンカー(おまけにレギュラーはスピードのないセルヒオ・ブスケッツ)しかいない場面が増え、即ピンチにつながる結果になっている。
 

 特に右サイドに対して、高い位置を取る左SB(レギュラーはジョルディ・アルバ)の背後は、日本の攻撃陣にとっては狙いどころだ。なかでもドリブルでもフリーランニングでも、タイミングを見極めて、爆発的なスプリントを披露することができる浅野拓磨と伊東純也は、スペインにとっては要注意選手だ(2ページ目の図1参照)。

 試合は、スペインがボールを握り、ポゼッション率が70%を超えることも予想される。日本のカウンター封じのポイントは、ルイス・エンリケ監督が重視する即時奪回を実行すること。さらに浅野と伊東がいないサイドから攻撃を仕掛ければなお安全だ。

 一方、攻撃面での課題は、今大会、日本で最も目立った活躍を見せている板倉滉と吉田麻也のCBコンビの攻略だ。ともに対人守備に強く、ドイツ戦では積極的に飛び出してインターセプトし、ボールを自陣ゴール前から遠ざけることに成功していた。

 さらにスペインの1トップに入るマルコ・アセンシオとアルバロ・モラタはいずれもボールコントロールの精度は高いとは言えず、ポストプレーで落としたセカンドボールを奪われるリスクには注意が必要だ。

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 ただスペインには、圧倒的なポゼッションとパススピードがある。パスを繋ぎながらスペースを見つけてゴールを狙うという点においては、今大会NO.1だろう。対して、日本は中盤の要の遠藤航が故障を抱えているという情報がありどういった構成になるかは分からないが、誰がコンビを組んだとしても、ボランチ同士の連係が良好とはいえない。

 それが板倉と吉田の負担増にもつながっている。ましてやスペインには、相手の急所となるスペースを的確かつ素早く突くことができるペドリがいる。中盤の構成力の差は歴然としており、スペインが圧倒的に有利と予想する所以でもある。
 


 日本の強みであるスピードも、高い位置でボールを奪い、攻撃に転じることができなければ、効果を発揮するのは難しい。しかもスペインは、中盤の選手だけでなく、ウイング、CB、SBと他のポジションの選手も軒並み高いキープ力を誇る。

 日本がボールを奪うことは簡単ではない。スペインが心掛けるべきはいつも通り我慢強くボールを回して、相手を消耗させること。さらに先制点を奪った後、日本が前がかりになって攻めてくれば、畳みかけていけばいい。

※図1:ドイツ戦とコスタリカ戦における伊東と浅野のドリブルマップ。緑の線はシュートか得点で終わったもの。青の線はラストパスかアシストで終わったもの。グレーの線はシュートや得点に至らなかったが、成功したもの、つまりプレイヤーが10メートル以上前進し、ボールを失わなかったもの。左サイドを青の線で囲んだのは、ジョルディ・アルバの守備エリアと重なっているため。

分析・文●アレハンドロ・アロージョ(ドリブラブ)
翻訳●下村正幸