【FIFA ワールドカップ カタール 2022・グループE】日本2-1スペイン(日本時間12月2日/ハリファ インターナショナル スタジアム)

 今、1枚の写真が大きな話題を呼んでいる。スペイン戦の51分、右の堂安律からのグラウンダーのクロスに前田大然が滑り込むも届かず。だが、そこに大外から猛スピードで駆け上がって来た三笘薫がいた。スライディングで折り返す体勢に入っており、ギリギリのところで折り返して中央で田中碧が身体で押し込んだ。

【映像】瞬時にボールを浮かせて上げた「三笘の神業」

 このシーンは肉眼ではボールがエンドラインを割っているように見えたため、ノーゴールだと思われた。実際に記者席にあるモニターでリプレー動画を見ても割っているようにしか見えなかった。

 しかし、ゴールキックもキックオフもされることなくVAR(ゴールラインテクノロジー)が作動。約3分間の確認の後に、レフリーが指を刺したのはセンタースポットだった。すなわちゴールが認められたのだ。

 会場には歓声とブーイングが入り乱れた。割っていたと思ったものが科学の力で割っていないことが証明された。真上から撮影した画像を見ると、確かにほんのわずかにボールがラインにかかっていた。その幅は1.88mmだったという。

■VARがなければ見落とされていた

 ここで補足をすると、エンドラインやタッチライン、ゴールラインを割っているか割っていないかは、ボールがライン上を完全に通過している状態であれば割ったことになり、ほんの数ミリでもラインにかかっていれば割ってないことになる。

 VARのゴールラインテクノロジーが導入されるまでは、レフェリーかアシスタントレフェリー(線審)が目視でこの判断が行われており、数ミリ、もしくは数センチの幅でかかっていても、見落とされることが多かった。

 よくある事象がバーに当たったボールがゴールライン付近に落ちて、バウンドしてピッチ内に戻るシーンで、これがゴールなのかノーゴールなのかが大きな物議を醸すこと。

 特にW杯のような世界的な舞台であれば、その物議はより大きなものになる。これらを避けるためにFIFAは今大会において最新技術として、ゴールラインテクノロジーを導入した。

 今回の事象は仮にノーゴールになっていても、おそらく物議にすらならなかっただろう。それほどテクノロジーの力としか言いようがないシーンだった。ただ、これは「日本が最新技術に助けられた」と言いたいわけではない。トップアスリートは数ミリという細かい世界で勝負をしているということを強調したい。

「1.88mm」が分けた勝負に会場は“歓声とブーイング”  三笘薫の“神業”が生み出したスーパーゴール

■前田にぶつけなかった三笘の神業

 よく「最後まであきらめるな」と言うが、このシーンでファーサイドに2人も飛び込んでいたことが素晴らしかった。特に三笘はただボールに食らいつくだけではなく、高度なテクニックと判断を駆使していた。

 三笘はまず追いつけると確信しながら飛び込んで、しっかりとボールの軌道を見極められていた。だからこそ、ボールの軌道に対して左足を正確に差し込むことができていたし、インサイドの面でしっかりボールを捕らえた。

 さらに目の前に前田が身体を投げ出しているのを把握して、前田に当てないようにボールの少し下を叩くことでボールを浮かして、ゴール前に送り込んだ。

 そして中央にはもう1人、諦めていない男がいた。田中だ。

 一瞬、「外に出ているかもしれない」と思い、左からゴール前に飛び込むスピードを緩めようと思ったと言う。だが、すぐに「とにかく押し込もうと思った」と諦めることなく、右膝でボールをゴールに押し込んだ。

 3人の選手のあきらめない精神と確かな技術が生み出したスーパーゴールなのだ。

 最後にもう一度言いたい。このシーンはテクノロジーに助けられたのではない、「神は細部に宿る」を大舞台で実践した諦めの悪い男たちが織り成したドラマであったと。

文・安藤隆人

写真・Getty Images