FIFA ワールドカップ カタール 2022で連日繰り広げられる熱戦を、ABEMAは全試合無料&生中継で放映中。一方、W杯期間中に限定開設した「Number渋谷編集室 with ABEMA」では、サッカーファンの“もっと知りたい欲”に応える記事の数々をNumberWebを通じて好評配信中です。この記事ではカタール滞在中のスポーツライター松本宣昭さんが、日本サッカー史上初のベスト8進出が懸かるクロアチア戦を占います。

 日本対日本。もしくはクロアチア対クロアチアと言うべきか――。

 日本サッカー史上初のW杯ベスト8進出を懸けた運命の一戦は、“似たもの対決”と言えるかもしれない。クロアチアの印象について、田中碧はこう語る。

「クロアチアの選手はすごくテクニカルですし、個人としてもハードワークしてくる印象です。どんなシチュエーションにも対応できるのは、彼らの良さでもあるのかなと思いますし、柔軟性や対応力にすごく長けているチーム。少し日本に似ているという感覚もあるのかなと思います。まあ、簡単な相手ではないと思いますね」

 確かに。グループステージ3試合での総得点はともに4。1試合平均のシュート数は、どちらも10本。数字だけでなく、守備の局面での“粘り”も日本と共通する部分が多い。4−1−4−1のシステムで組むクロアチアの守備ブロックは常にコンパクトな状態を保ち、横に揺さぶられても、背後を狙われても、愚直にスライドを続けて最後の一線を割らせない。この守りでグループステージは3試合でわずか1失点。前回大会の決勝トーナメントでも3試合連続で延長戦にもつれ込みながら準優勝を果たしたように、接戦をモノにする粘り強さは、もはやお家芸だ。

クロアチア攻略の鍵は中盤にあり

 ただし、粘りに粘る“納豆ディフェンス”は日本の武器でもある。クロアチア戦では板倉滉が累積警告で出場停止となるが、谷口彰悟がスペイン戦で堂々のW杯デビューを果たし、冨安健洋が復帰したことで、吉田麻也を含めた高くて強い“フラット3”は強度を維持できるはずだ。

 守備面に共通要素が多い一方で、攻撃面の傾向には違いがある。

 クロアチア=495.7本

 日本=294.7本

 これはグループステージでの1試合平均パス成功数だ。日本がドイツ、スペインという優勝経験国と同組となったことで守勢に回り、パスをつなげなかった影響もあるが、クロアチアはより手数をかけて攻めてくる。パスワークの心臓部となるのが、あの3人だ。

「中盤の3人は、インテル(ブロゾビッチ)、チェルシー(コバチッチ)、レアル・マドリー(モドリッチ)という、世界的に見てもビッグクラブでやっている。中盤のクオリティに関しては、今大会出場国の中でもベストの1つだと思っています」

 冨安健洋が言うように、クロアチアの中盤中央に構える3人による三角形が、自在に形を変えながらボールを動かし、攻撃を組み立てる。そして左に構えるトッテナムのウイングからも、目を離してはいけない。

「ペリシッチは良い選手だなと思います。僕はアーセナルの所属選手ですし、(同じロンドンのライバルクラブである)トッテナム所属のペリシッチは、絶対にやらせてはいけない相手。しっかり抑えたい」(冨安)

 クロアチア=21.7本

 日本=13.0本

 これはグループステージでの1試合平均クロス数だ。クロアチアは中盤中央で攻撃のタクトを振るう3人が巧みにボールをサイドに展開し、そこからのクロスで日本ゴールに襲いかかってくる。特にペリシッチのいる左サイドから敵陣ゴール前へのエリア別侵入割合(左・中央・右で3分割)は、初戦のモロッコ戦が45%、第2戦のカナダ戦が53%、第3戦のベルギー戦が64%。明らかに攻撃は左偏重だ。この強烈な左フックをガードすべく、3バックの右ストッパー、あるいは4バックの右サイドバックに冨安を置き、ペリシッチ封じを狙う可能性もある。

ペリシッチらクロアチアの中盤の制圧に闘志を燃やす冨安。どのような形での出場となるか ©Getty Images
ペリシッチらクロアチアの中盤の制圧に闘志を燃やす冨安。どのような形での出場となるか ©Getty Images

ゴールを奪うための狙い目とは

 PK戦があるとはいえ、ノックアウトステージは耐えるだけでは未来がない。ならば、いかにして日本はクロアチアからゴールを奪うべきか。狙うは“心臓の脇”だ。クロアチアが辛うじて引き分けに持ち込んだグループステージ第3戦の後半、ベルギーは2シャドーのデブライネとトロサールが、クロアチアのアンカー、ブロゾビッチの脇のスペースに潜り込んで起点となり、何度もチャンスを生み出した。日本も3バックなら2シャドー、4バックなら2列目に入る鎌田大地や堂安律、三笘薫、伊東純也らがこのスペースに入り込んで前を向いてボールを持てるかがカギになるだろう。

 W杯での日本とクロアチアの対戦は3度目。98年フランス大会は0−1の敗戦、06年ドイツ大会は0−0のドローに終わった。“似たもの対決”の今回も、ロースコアで推移する可能性が高い。この我慢比べに勝利したとき、長く日本の前に立ちはだかってきたベスト8への壁が崩壊する。