2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!
■どうしてスペインは敗れたのか
先ほど成田空港に到着。電車の中で、この原稿を書いている。12月8日の朝(日本時間)である。
一昨日の夜(カタール時間)の午後7時にモロッコ対スペインの試合の前半を見てからエデュケーションシティ・スタジアムを後にして、メトロでハマド・インターナショナルエアポートに向かった。
スタジアムを出るときに「こりゃ、なかなか点が入りそうもないな」と思っていていたが、空港に着いて試合経過をチェックしたら、案の定、スコアレスのまま延長戦に入るところだった。そして、スリランカ航空UL218便に搭乗する前にもう一度チェックしたら、モロッコのPK勝ちが決まっていた。
スペインは、ワールドカップの全試合において、ボールポゼッションでは相手をかなり上回っていた。だが、初戦のコスタリカ戦で7ゴールを奪って圧勝したものの、その後はドイツ戦が1ゴール、日本戦も1ゴール、そしてモロッコ戦は無得点と、得点力不足は明らかだった。
それも、数多くの決定機をクロスバーやゴールポストに嫌われたとか、相手GKの超人的なセービングがあったとかではなく、そもそも“決定機”自体が少なかった。
僕は、大会前からスペインの得点力不足は認識していたが、ここまで深刻だったとは思っていなかった。
モロッコも前半はスペインをリスペクトして、自陣に引いて守っていた。だが、モロッコの選手たちは30分を過ぎる頃から次第にスペインを怖がらずに攻撃を仕掛けるようになっていった。
ピッチの上で「スペイン、恐れるに足らず」と感じたのだろうし、同時に「日本がスペインに勝利した」という事実も、モロッコの選手たちを後押しする効果があったのかもしれない。
■「良いサッカー」とは何か
大会中、スペインのルイス・エンリケ監督が「スペインが良いサッカーをしている」というコメントを発していたようだが、「パスをつなぐ技術」という意味ではたしかにスペインは出場32チームの中でも最も上手かったのかもしれない。
だが、サッカーの目的はパスをつなぐことではない。真の目的は、相手より1点でも多くのゴールを奪って(あるいは、失点を相手より1点でも少なくして)勝利することなのである。その意味では、スペインはけっして「良いサッカー」をしていたわけではない。
ちょっと待って。今の言葉、プレーバック、プレーバック……。
「パスをつなぐのはうまいけれど、それがゴールにつながらない」。なんか、懐かしい言葉だと思わないだろうか? そう、日本代表は、かつてずっとそんな風に揶揄され続けてきた。ブラジルと対戦すると、日本はボールを持たされて、パスカットを狙われてカウンターから失点を重ねる、そんな試合ばかりだった。
ところがどうだ、今大会の日本代表は!
ドイツやスペインは個人能力では日本を間違いなく上回っていた。日本の選手がプレスをかけにいっても、かわされてしまうことが多かった。とくに、やはりスペインのパスをつなぐ能力は、日本代表よりはるかに上だった。
だが、日本はスペインの攻撃に耐えて(あるいは、スペインの得点力不足に助けられて)前半を1失点で折り返すと、後半に入って一気に攻撃のギアを上げて、あっと言う間に2ゴールを決めたのだ。「パスはうまいけど……」と言われていた時代の日本からは想像もできないような決定力だった。
この効率の良さを維持したまま、パスをつなぐ能力でもスペインに近づけたとしたら、その時は日本代表はベスト8に相応しい(そして、一つ二つの幸運があれば決勝進出も狙える)チームになるのだろう。