方向性は間違っていなかった

モロッコ代表がFIFAワールドカップ・カタール大会で1つ1つ白星を重ねるたび、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督に注目が集まるようになった。

ハリルホジッチといえば2015年より約3年間日本代表の監督も務めた人物だが、FIFAワールドカップ・ロシア大会を控えた2018年4月に解任されることに。この人事は日本でも話題を呼んだ。

2019年より指揮してきたモロッコ代表でも同じことが起きてしまい、モロッコサッカー協会は今年8月にハリルホジッチの解任を決定。一部選手の招集を巡って意見の合わないところがあり、最終的にモロッコサッカー協会はハリルホジッチ解任の選択肢を取った。

後任にはワリド・レグラギが就任し、モロッコは大快進撃を見せてカタール大会・ベスト4に入ってみせた。結果だけを見るなら、ハリルホジッチからレグラギへのバトンタッチは正解だったことになる。

しかし、日本代表にもモロッコ代表にも“ハリル流”が残っていた点は見逃せない。今大会でベスト16に入った日本もドイツ、スペイン相手に堅守速攻をベースに金星を挙げており、ハリルホジッチが口酸っぱく指摘してきたデュエルの重要性は日本サッカー界にきっちりと根付いている。

モロッコ代表も立ち位置は日本と似ており、強豪相手に守備を重視したところから速攻で点を奪う戦いだ。ここでもデュエルは効いており、日本やモロッコといった中堅国がFIFAワールドカップで上を目指すうえでは堅守速攻が大事になることをハリルホジッチも理解していたのだろう。方向性は間違っていなかったはずだ。

もっとも指揮官は戦術を組み立てるだけでなく、選手とのコミュニケーションも重要だ。そこには課題があったかもしれないが、ハリルホジッチが好みそうなスタイルで決勝トーナメント行きを決めた日本とモロッコの戦いぶりは何とも興味深い。

仏『Foot Mercato』によると、ハリルホジッチはモロッコ代表の躍進に関して「モロッコについては、何とも言い難い。この大会で私が逃したものは大きい。彼らは私のプライドを傷つけた。それを忘れることはない。監督業として最後だったかもしれないからね」と悔しさを滲ませている。

しかし、モロッコの快進撃をすべてレグラギの手腕という結論で片付けられないのは事実。ハリルホジッチが植え付けたものも大きかったはずで、日本とモロッコの今後においても大きな種を蒔いてくれた指揮官と言えそうだ。