アフリカの歴史を塗り替えたのはモロッコだった。
カタール・ワールドカップ準々決勝でモロッコがポルトガルを1-0で下し、アフリカ勢としては初のW杯4強入りを果たした。これまで1990年イタリア大会のカメルーン、2002年日韓大会のセネガル、そして2010年南アフリカ大会のガーナというサハラ砂漠以南の国々がはね返されてきた準々決勝の壁を、北アフリカの地中海に面した王国が越えて見せた。試合前の選手たちに「アフリカのために歴史を作らねば」と檄を飛ばしたレグラギ監督は、「とても、とても幸せだ」と快挙に酔った。
ポルトガル戦は42分に左サイドバックのアティヤト・アラーが上げたクロスを、ゴール前で驚異のジャンプ力を見せたエン=ネシリがヘディングで叩き、均衡を破った。その後は持ち前の堅守でリードを守り切り、歓喜の瞬間が到来。ポルトガルがボールを保持するたびに耳をつんざくような非難の口笛で完全ホーム感を演出したサポーターと、喜びを分かち合った。
モロッコの強さを支えているのは、何といってもその守備力で、ここまで5試合で失点わずか1は最少。それもグループステージのカナダ戦のオウンゴールだ。クリーンシートを達成した相手がクロアチア、ベルギー、スペイン、ポルトガルという欧州の並みいる強豪であることを思えば、その価値も分かるだろう。
4人の守備ラインの前に守備的MFアムラバトを置く守備は非常に堅固。ポルトガル戦はセンターバックのアグエルドを太ももの負傷で欠き、57分にはそのパートナーであるサイスも負傷で退いたが、得点を与えることなく凌ぎ切り、層の厚さが感じられた。
守備から攻撃への切り替えもメリハリが効いて効果的だ。縦への速い攻めもあれば、高度なテクニックを活かしたドリブル突破や小気味良いパスワークと多彩。守りの職人ともいうべきアムラバトが中盤でボールを刈りまくり、ウナヒはしなやかな身のこなしのドリブルと広い視野のパスでチャンスを生み出す。
前線の右サイドで技巧を発揮するジイェフ、攻守に貢献度の高い右サイドバックのハキミという2枚看板は、貫禄さえ感じさせる。ラウンド16のスペイン戦で見せた左ウイングのブファルの絶妙フェイントは、マーカーのジョレンテもきつねにつままれた思いだったに違いない。
こうした個性豊かな選手たちをしっかりまとめ上げたレグラギ監督の手腕も見逃せない。モロッコは今年8月末、予選突破に導いたボスニア・ヘルツェゴビナ出身の元日本代表監督ハリルホジッチを解任した。その後を引き継いだのが、今年5月にウィダド・カサブランカ(モロッコ)をCAFチャンピオンズリーグ優勝に導いたレグラギ監督である。
フランス生まれの同監督は、ハリルホジッチ前監督が冷遇したジイェフらの実力派を呼び戻した。ジイェフはチェルシー(イングランド)に所属するモロッコきってのスター。しかし、ポルトガル戦では左サイドの守りに加勢した後、右サイドの自分のポジションに駆け戻る光景が何度も見られた。「選手たちは代表チームに来れば持てる力を出し尽くす」と指揮官。選手の任務遂行への責任感と、チームにしっかり植え付けられた規律が垣間見えた。
レグラギ監督は「まだ準決勝がある。神のご意志があれば、決勝もだ」とポルトガル戦後に語った。現地時間12月14日の準決勝でその行く手に立ちはだかるのはフランス。この魅力的なチームがさらに高い壁を越えてふたたび歴史の扉を開くのか、その前途から目が離せない。
取材・文●石川 聡
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