カタールワールドカップも、終盤に入ってきた。日本代表はPK戦で敗れたが、同じ形で大会を去るチームは他にも出た。また、同じ数だけPK戦での勝ち上がりもあるのだ。ワールドカップとPK戦には、どんな因果関係があるのか。サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。

■PK戦が増える理由

 ワールドカップのノックアウト・ステージで延長でも勝負がつかない原因は何なんだろう?

 もちろん、それは実力が伯仲しているからだし、なかなか得点が生まれないサッカーという競技の特性によるものでもある。

 しかし、ノックアウト・トーナメントに入ると勝つために冒険するよりも、負けないためのネガティブな戦い方をするチームが多いこともPK戦が増える原因となっている。

 たとえば、クロアチアにPK戦の末に敗れて20年ぶりの優勝を逃がしたブラジル。

 クロアチア戦は絶対有利の戦いだった。

 クロアチアは、グループリーグ最終のベルギー戦では敗れればグループステージ敗退という条件での試合を戦った(結果はスコアレスドロー)。さらに日本とのラウンド16では延長まで120分の戦いを余儀なくされ、疲労をため込んだまま中3日で準々決勝を迎えたのだ。

 そもそも、クロアチアではルカ・モドリッチに加えてマテオ・コバチッチ、マルセロ・ブロゾヴィッチの3人のMFは替えのきかない絶対の存在であり、彼らは試合に出続けて疲労をためていた。

 一方のブラジルは開幕2連勝でグループリーグ突破を決め、3戦目のカメルーン戦では大幅なターンオーバーを行った。しかも、ラウンド16の韓国戦では前半のうちに4ゴールを決めて楽勝。圧倒的に有利な状況だった。

■ブラジル代表のミス

 おそらく、ブラジルとしては「じっくりと戦って、疲労をためたクロアチアの足が止まってから勝負すればいい」と考えたのだろう。ある意味で、合理的な判断だ。実際、試合が始まっても、ブラジルは無理には攻めに行かなかった。

 クロアチアの選手たちも、試合開始前には疲労の蓄積という不安はあったはずだ。だが、ブラジルが猛攻をかけてこなかったために余裕が生まれ、試合が進むとリズムを取り戻すことができた。そして、逆にブラジルはテンポを上げることができなくなってしまった。

 それでも、延長戦に入ってネイマールのテクニックから先制点を奪ったブラジルだったが、「これで勝負あり」と判断してしまったのだろう。ダメ押しの1点を取りには行かず、試合運びに甘さが出た。そして、クロアチアが驚異の粘りを見せたのだ。

 延長後半117分になってもプレーを続けていた37歳のモドリッチはブラジルの選手に絡まれながらもしっかりと前線にボールを供給して、同点ゴールのお膳立てをして見せたのだ。

 PK戦で勝利し続けた成功体験を持つ(そして、そのための十分な準備を行ってきた)クロアチアの選手たちには「PK戦に持ち込めば勝てる」という確信があっただろう。

 そして、クロアチアは筋書き通りにPK戦での勝利をもぎ取った。

 もしブラジルが前半のうちから積極的に仕掛けていれば、クロアチアの選手たちは疲労の蓄積で最後まで耐えることはできなかっただろう。

■勢いを捨てたオランダ

 もう一つの準々決勝、アルゼンチン対オランダの場合はどうか。

 オランダはラウンド16でアメリカ相手に完勝していたが、グループリーグでも強い相手とは当たっていなかった。一方、アルゼンチンは初戦でサウジアラビアに逆転負けを喫し、2戦目のメキシコ戦も苦戦を強いられたが、この試合をリオネル・メッシの個人能力でモノにして以降、次第にチームがまとまって上向いてきていた。

 そして、メッシのアシストとPKによってアルゼンチンが2点をリードする。

 すると、受けに入ったアルゼンチンに対して、オランダはなりふり構わず、長身選手を前線に並べてパワープレーを仕掛けて1点差とし、さらに後半のアディショナルタイムにFKからのトリックで同点とした。

 もし、延長に入ってからもオランダがそのままパワープレーを続けていたら、アルゼンチンにとっては嫌な展開となっていただろう。だが、オランダはどういうわけか、パワープレーを止めて、パスサッカーに戻ってしまったのだ。

 リードされたチームはギアチェンジをして、リスクを背負ってなりふり構わずに仕掛けるから同点に持ち込むことができる。だが、同点になると、今度は負けるリスクを考えて攻撃の勢いを失ってしまう。

 今回のワールドカップでは、そんな試合が数多く見られた。

 同点ゴールを決めた後も攻撃の矛を収めることなく、一気に逆転を狙い、実際に逆転に成功する……。そんな試合をして見せたからこそ、日本代表の戦いは日本人以外のファンからも支持を受けたのだ。