キリンカップ、チュニジアがチリを2−0と下している。

 アフリカの伏兵の戦い方は、森保ジャパンと既視感があった。
 
 チュニジアは序盤、劣勢に立っている。チリのマンツーマンに近いプレッシングサッカーに苦しみ、ほとんど自陣から出られていない。耐える展開になった。

 4−3−3のシステムで、アンカーに入ったライドゥニがディフェンスラインの守備フィルターになり、守備の厚みを加えていた。真ん中を堅固にして自由にはやらせず、サイドも持ち場を守って侵入をできるだけ封鎖した。守りの安定感が伝わってきた。
 
 構造的に、森保ジャパンと似ている。
 
 チュニジアは堅く守ってリズムを作った。それが攻撃も好転させた。41分、電光石火のカウンターが決まった。左サイドから手数をかけずに迅速にボールを繋げると、右サイドへつなげる。モハメド・ドレーガーはダイレクトのクロスを逆サイドまで送り、飛び込んだアリ・エラブディが頭で押し込んだ。
 
 ドレーガーは右サイドバックで、アブラディは左サイドバックである。攻撃に入った時は、一気呵成の証左だろう。攻めに入った時のオートマチズムは見事で、組織的かつ効率的だった。
 
 森保一監督が目指すゲームプランに近い。「いい守りがいい攻めを作る」。それはチームの理念だ。
 
 後半に入ると、チリの攻撃の勢いが減退した。長旅による疲れも残っていたのだろう。主力も数人欠いていた。
 
 チュニジアは交代策を使い、挽回に成功している。とりわけ、マンチェスター・ユナイテッドに所属する19歳攻撃的MFハンニバル・メジブリの投入で、攻撃を活性化。攻められるどころか攻め返し、89分にはハンニバルのボールキープとパスからチャンスを作り出し、クロスの折り返しをイサム・ジェバリが決めた。これで“勝負あり”だった。最後はPKを献上したが、これをGKが防いだ。

 決して華やかなサッカーではない。受け身的で、まずは相手の持ち味を消し、辛抱強く戦うことが求められる。ポゼッションは守備のために使い、攻撃は一瞬のカウンターで決める。創造的なサッカーではないが、攻めの手段を捨てるわけでもなく、交代カードには局面を変えられるファンタジスタやドリブラーを仕込んでおく。
 
 森保ジャパンの兄弟のようだ。
 
 チュニジアは、チリを下した。このレベルの相手だったら、十分に有効だろう。しかし、相手に主力が戻ったらどうか。

〈ドイツ、スペインを倒せるか?〉
 
 カタールW杯に向け、森保ジャパンはその命題と向き合うことになる。
 
文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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