カタール・ワールドカップのメンバー発表、改めて森保一監督の色が強く出た。突然、年齢順にメンバーを発表したのも、その一つか。一方で26人のメンバーに、サプライズはほとんどなかった。「大迫勇也の落選で会見中止」というニュースはあったが、メディアの話題作りだろう。選ばれる可能性のあった選手のために、会見を設定していたに過ぎない。
古橋亨梧、旗手怜央の二人が外れ、浅野拓磨、前田大然が入ったのも、十分に予想されていた。とにかく監督の好みが強い。長友佑都、柴崎岳も「テッパン」で、原口元気を外したのは唯一、意外だったか。
選出メンバーで戦い方は見えてきたが、残念ながら胸が躍るようなものではない。
「頑張って守り、蹴って走って頑張る」
要約すると、それが森保ジャパンの戦略だろう。ブロックを作って守り、スピードのある選手でカウンターとも言える。前田、浅野のスピード一発狙いで、弱者の兵法だ。
2012年ロンドン五輪でスペインを血祭りにあげ、2010年南アフリカW杯でカメルーン、オランダ、デンマークとのグループステージを勝ち上がった戦いに近いか。守備での献身性と攻撃のスピードを旋回軸に、他の選択肢はほとんど捨てる。ボールを蹴ってリスクを減らし、持たせて敵のリスクを上げ、効率に根ざした戦いだ。
はたして、その戦略がドイツ、スペインの猛者たちに通じるのか。五輪世代では未成熟同士で出し抜けたし、アフリカのカメルーンが相手だったり、デンマークを相手に2本のセットプレーが決まるような僥倖があったら可能だろう。しかし所属クラブで経験を重ねた敵選手たちは、その経験を乗り越えている。
指揮官が使い古された理屈に縋ることしかできないところに、不人気の本当の正体はある。欧州遠征メンバー30人が刷新される可能性は低かった。事実、怪我人の復帰による変更だけに近い。古橋亨梧や旗手怜央というチャンピオンズリーグを戦う選手の力を引き出すよりも、Jリーグに復帰してもたつく長友やスペイン2部で燻る柴崎岳やドイツで結果が出ない浅野の方が計算が立つということか。
はっきりと言えば、森保監督が自分のサッカーで貢献できる選手を選んだに過ぎない。
「代表はいい選手から順に選ぶわけではない」
それはひとつの定説だが、代表監督の言い訳でもある。相応の采配力があったら、いい選手からピックアップし、最良の組み合わせを考え、ピッチに送り出せる。そもそも代表はクラブと違い、戦術的成熟が難しい。希代の戦術家、アリゴ・サッキでさえ、イタリア代表で攻撃はロベルト・バッジョ、守備はフランコ・バレージに託したほどだ。
森保監督が編み出した「戦術」で、列強を打ち破れるのだろうか。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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