カタール・ワールドカップ前最後のテストマッチで、日本はカナダに1-2で敗戦。相馬勇紀のゴールで先制したものの、2つのセットプレー(CKとPK)による失点で逆転負けを喫しました。
勝負を分けた得点は終了間際に。アディショナルタイムになぜ山根視来選手のPKを与えるファウルが起きてしまったのでしょうか。
この試合では85分に1-1の場面で南野拓実選手に代えて吉田麻也選手を投入し、4バックから3バックに変更していました。この布陣では両ワイドを攻撃的に押し上げ、勝点3を狙うのか、5バック気味にブロックを引いて勝点1を取りにいくのか、その意図がくみ取り切れませんでした。
そうした前提がある一方で、山根選手が足を出したシーンは少し遅れ気味でしたが、もちろん、ボールを取れると思ってトライしたのでしょうし、相手がボールを受けた位置や、その後の対応が良かったことが、ファウルとなった直接的な原因です。
ペナルティエリアまでボールを運ばれてしまっている以上、厳しく当たらなければシュートを許してしまいます。広範囲の状況が分からないのではっきりとしたことは言えませんが、角度も厳しい位置でしたし、中では吉田選手が余っていたので、無理をする場面ではなかったかもしれません。
ただ、直前のシーンを見直すと、原因は山根選手個人の判断だけでなく、その前段階からありそうです。相手にボールを持ち出された際に、対応にあたった山根選手への味方のフォローが足りていません。中にいた堂安律選手が少し浮いた形になっており、もし、相手が中に入るコースをハッキリと切れていたら、山根選手の対応も違っていたかもしれません。さらにさかのぼって、その前のサイドからパスを出した選手へのアプローチも足りておらず、危険な場所で時間を与えてしまっていました。
守備は状況をくみ取りながら、その都度判断が変わるもの。一発で防ぐのではなく、前線からのプレスなどの積み重ねでもあります。
対戦相手のレベルが上がれば、こちらの思いどおりにプレスでハメるのは難しくなります。ワールドカップで対戦するドイツやスペインなど格上の相手に対して、前線からのプレスを剥がされた際に、いかに相手の意図したプレーをさせないか、いかにプレーの選択肢を削って行けるかが大切です。
ある程度、相手のプレーを限定できれば、なるべく相手にとって良い形にさせず、ゴールに素早く向かわせないで手数をかけさせる。そうすることで、相手のミスも生まれますし、守備が対応できる時間も作れます。
本大会では球際で粘り、我慢しなければならない場面が増えると思います。ここまでやらないといけないという志向ではなく、ここまでやり続けようと思えるのか。覚悟を持って腹を括ってプレーすることが重要ですね。
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同点にされたCKの場面でも同様のことが言えます。
いかに相手をフリーにしないか、例えシュートを打たれたとしても、100パーセントで打たれないようにするか。セットプレーの守備はそういう基本的なことが大事で、育成年代を指導する現場で話すことも、日本代表のカナダ戦での注意点も同じです。
さらにCKでは、その後の反応を素早くすることも必要です。同点弾を許した場面は、決して一発で決められたわけではなく、セカンドボールを詰められたもの。相手がデザインしていた形ではあったかもしれませんが、ボールを競り合った選手以外が次の動きに備えられていなければなりません。
今回の課題は、8本あった相手のCKで、1本目からシュートを許すなど、いずれも相手にイケると思わせてしまいました。最初のプレーから相手が嫌がるような守備をしていく必要があります。
当然、選手たちは分かっているでしょうが、そういう一つひとつのプレーの粘りが、次のプレーにつながる。カナダ戦の敗戦は、1人の責任ではなく、他に何ができたかと考えることが必須です。周りの選手の関わりをもう一度見つめ直す、良いきっかけになったのかもしれません。
【著者プロフィール】
市川大祐(いちかわ・だいすけ)/1980年5月14日、静岡県出身。現役時代は日本代表の右サイドバックとして活躍したクロスの名手。1998年に17歳でA代表デビューすると、2002年の日韓W杯でも活躍。アカデミー時代から過ごした清水ではクラブ歴代3位となる325試合に出場した。2016年に現役引退後は指導者の道に進み、現在は清水エスパルスジュニアユース三島U-13監督として活躍中。さらに、ワールドカップ期間中は、日本戦をニコ生で徹底分析! アナリストとともに戦術・フォーメーションなどにフォーカスにした解説放送を行なう。