●いきなり失点→目を覚ます

 FIFAワールドカップカタール2022・グループリーグD第1節、フランス代表対オーストラリア代表が現地時間22日に行われた。前回王者のフランスは開始9分に先制点を献上も、これで目が覚めたか、その後は攻守で圧倒。最終的に4得点を奪い快勝した。その攻撃を司っていたのは、あの男だ。(文:小澤祐作)

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 開始わずか9分、アーロン・ムーイのロングボールを収めたマシュー・レッキーがクロスを送ると、ファーサイドのクレイグ・グッドウィンが左足でプッシュ。戦前の予想を裏切り、オーストラリア代表が先手を取った。

 フランス代表の試合への入り方はどこか緩く、この失点シーンも、リュカ・エルナンデスにアクシデントがあったとはいえ、あっさりやられすぎていた。この時点で、アルゼンチン代表対サウジアラビア代表のような展開が頭をよぎった人は少なくなかったはずだ。

 しかし、やはり前回王者の力は半端ではなかった。

 フランス代表は、先制点を奪われたことにより、完全に目を覚ましたと言える。失点後、攻守の切り替えが格段に速くなっており、プレスの勢いも増した。最初からそれをやっていれば…というのはあったが、こうなったフランス代表はもう止まらなかった。

 27分にテオ・エルナンデスのクロスからアドリアン・ラビオが頭でゴールネットを揺らし同点に追いつくと、その5分後に相手のミスを突いたところからオリビエ・ジルーがゴール。前半のうちにスコアをひっくり返した。

 後半もフランス代表の勢いは止まらず、68分にはエースのキリアン・エムバペに大会初ゴールが誕生。71分には再びジルーに得点が生まれ、一気にオーストラリア代表を突き放したのである。

 その後はゴールが生まれなかったものの、あと3点ほどは入っていても不思議ではなかったと言っていい。先制された際にはどうなることやらと思ったが、終わってみれば4-1の快勝。支配率62.4%、シュート数23本、被シュート数4本と圧倒的な内容だった。

●組織を叩き続けた個の勝利

 オーストラリア代表の守備がまったく機能していなかったわけではない。4-5-1のブロックを敷き、それぞれのラインをコンパクトに保ちながら、粘り強く戦うことはできていた。しかし、ほぼ全員がビッグクラブに所属しているフランス代表との差は、そう簡単に縮められるものではなかった。

 フランス代表が何か特別な策を用意してきたわけではない。ただオーストラリア代表の組織を崩壊させる術は、個の能力で十分だったのだ。

 中盤でラビオとオーレリアン・チュアメニが正確にパスを捌き、サイドのエムバペとウスマン・デンベレがスピードを生かして再三ドリブルを仕掛け、深さを作る。弾かれてもすぐに回収し、またサイドに展開して仕掛ける。フランス代表はこれを繰り返し、オーストラリア代表の守備を左右に揺さぶった。

 オーストラリア代表からするとたまったものではない。エムバペとデンベレの対応で精一杯なのに、そこに超攻撃的サイドバックのT・エルナンデスも絡んでくる。圧倒的な個を持つフランス代表の攻撃力はあまりに理不尽だった。

 3点目はとくにそうだ。エムバペとT・エルナンデスで左サイドを破りグリーズマンの決定機に繋げると、クリアされたボールを拾って繋ぎ、再び左サイドに展開。今度はエムバペが深さを取りクロスを上げると、ファーサイドにこぼれたボールをデンベレが拾って正確なクロスを送る。これをエムバペが頭で合わせるなど、いとも簡単にオーストラリア代表のブロックを翻弄していた。

●理不尽な攻撃を成り立たせた男とは

 そんな超強力な攻撃陣をうまく司っていたのが、アントワーヌ・グリーズマンだ。

 ゲームメイクとチャンスメイクの両方を担ってきたポール・ポグバが今大会は不在で、誰が同じような役割を果たすのかというのは注目ポイントだったが、それはグリーズマンに任されていた。スタートポジションは4-2-3-1のトップ下だったが、芝生を全部踏んだのではないかと思うほど、流れの中では自由に動き回っていた。オーストラリア代表は、このグリーズマンを捕まえるのに一苦労していた印象だ。

 グリーズマンは中間ポジションで何度もパスを受け、シンプルな捌きなどでボールとオーストラリア代表の選手を動かしていた。前向きでボールを持てれば、正確なキックとアイデアを生かしてズバッと効果的なパスを差し込み、攻撃の勢いを加速させる。まさに司令塔だった。

 オフ・ザ・ボールの動きも巧みで、45分にはデンベレの開けた右サイドにポジショニングし、内側への斜めのランニングでロングボールを引き出してボックス内に侵入。最後はエムバペの決定機を演出した。繰り返しになるが、変幻自在なグリーズマンを、オーストラリア代表は明らかに見失っていた。

 ゴールやアシストは残せなかったものの、グリーズマンはそのセンスを遺憾無く発揮したと言える。キーパスは両チーム最多の6本を記録しており、データサイト『Who Scored』では2得点のジルーや1得点1アシストのエムバペらを抑えMOMに選出されている。

 今大会のレ・ブルーのカギを握るのは、この男かもしれない。

(文:小澤祐作)