カタールワールドカップが開幕して4日目を迎えた。サウジアラビア代表がアルゼンチン代表に逆転勝利する下剋上が起こるなど、すでに記憶に残るような試合が生まれている。

 そんな中、各国メディアも大きく取り上げて注目を集めているのが「アディショナルタイム」の長さだ。

 今大会は前後半ともにアディショナルタイムが5分を超える試合ばかりで、10分以上になることも珍しくない。第四審判が「えっ!?」と驚いてしまうような時間の表示されたボードを掲げる姿を何度も目にした。

 こうしたアディショナルタイムの増加は、大会開幕前から予告されていたものだった。FIFA(国際サッカー連盟)の審判委員長を務めるピエルルイジ・コッリーナ氏は、空費された時間を厳格に測定してアディショナルタイムに計上することを明言。その計画はワールドカップの舞台でしっかりと実行に移された。

 例えばグループBのイングランド代表対イラン代表では、前半のアディショナルタイムが14分、後半のアディショナルタイムは10分に。前半はイラン代表のGKアリレザ・ベイランヴァンドの負傷と治療、交代などがあって、プレーの止まる時間が長かったためにアディショナルタイムが過去に例を見ないほどの長さになった。

 後半も多くのゴールやVARの介入などがあり、イラン代表のFWメフディ・タレミがチームの2点目となるPKを決めたのは「90+13分」という記録になった。

 他の試合でも、過去に比べて長いプレー時間の追加が目立つ。22日までに行われた全試合のアディショナルタイムをまとめると、以下のようになる(※分数は第四審判が掲げたボードに表示された数字に基づく)。

カタール対エクアドル 前半5分+後半5分=合計10分
イングランド対イラン 前半14分+後半10分=合計24分
セネガル対オランダ 前半2分+後半8分=合計10分
アメリカ対ウェールズ 前半4分+後半9分=合計13分
アルゼンチン対サウジアラビア 前半5分+後半8分=合計13分
デンマーク対チュニジア 前半4分+後半5分=合計9分
メキシコ対ポーランド 前半2分+後半7分=合計9分
フランス対オーストラリア 前半6分+後半7分=合計13分

 これまで8試合が開催され、うちアディショナルタイムの合計が10分を下回ったのは2試合しかない。前半アディショナルタイムの平均は約5.25分、より長くなりがちな後半アディショナルタイムの平均は約7.38分、そして前後半合計の平均は12.625分となった。もはや前後半それぞれに延長戦がくっついているようなものだ。

 これまでなら「90分間」という意識で試合ができていたところに長いアディショナルタイムが追加され、プレー時間が前後半合計で「100分間」を超えることも珍しくなくなるだろう。そうなった時、ピッチ上でのゲームマネジメントは非常に難しくなる。

 というのもアディショナルタイムが5分以上あれば、1点差なら十分に逆転できる時間を得られるだろうし、終盤の引き分け狙い的な戦い方も難易度がグンと上がるからだ。当然、試合を観戦・視聴する側にも影響が出てくるだろう。アディショナルタイム計測の厳格化は試合の最終盤をよりエキサイティングなものにしてくれるかもしれないが、必ずしも歓迎されているわけではないのである。

 ちなみに勝敗に直接関係しなかったが、セネガル代表と対戦したオランダ代表のMFダフィ・クラーセンが最終盤にチームの2点目となるゴールを決めたのは「90+9分」だった。このように終盤が冗長になると、場合によっては試合がいつまでも終わらないような錯覚すら覚えることがあるかもしれない。

 では、選手たちはコッリーナ審判委員長が打ち出した新施策をどのように見ているのだろうか。日本代表のMF守田英正は「僕のプレーしているリーグでは7分や8分(のアディショナルタイム)が当たり前なので、僕個人としては何も問題ないかなと」と語る。

 一方でGK権田修一は、あえて視点を変えて長いアディショナルタイムを生かしていくべきだと説く。

「(試合を)見ている感じ、5分以上(アディショナルタイムを)取っている試合が多い気がします。そこは難しいと捉えるか、逆にそういうものだと捉えるか(で見え方が変わってくる)。今大会がそういうやり方になっている以上は、僕らは逆に(前後半それぞれ)50分の試合があると考え、そこを目指してやればいいだけ。(アディショナルタイムの長さの基準は)5分だと最初から思っておけば、そんなに『あと5分もあるか…』と思わないのかなと」(権田)

 90分ではなく、あらかじめ頭の中で約100分間の試合を想定しておけば、アディショナルタイムの長さが気にならなくなるだろう。もうすぐ勝てそうな展開で安心し始めた矢先、「あれ!? アディショナルタイム10分!」と慌てて集中し直さなければならず、その隙を突かれて失点してしまうような凡ミスは減るのではないだろうか。

 権田は23日に予定されているドイツ代表戦に向けて「試合はトータルで100分くらい時間があるので、アルゼンチン代表みたいに先制して、そこから逆転されてしまっては良くない。90分、あるいは100分、試合を通して自分たちが支配される時間もあるかもしれないですけど、トータルで見たら『日本のゲームだったよね』と言われるようなゲームをデザインすることが大事」だとも話していた。

 これは日本代表のみならず他国の代表チームにも同じことが言えるだろう。カタールの地で新しい基準のアディショナルタイムに適応し、確実に勝ち点3をもぎ取っていくためには、90分間ではなく100分前後の大枠の中でゲームプランを詰めていく必要がありそうだ。

 そして、ボールが止まっていた時間をそのままアディショナルタイムに加算するということは、ピッチ上で走る時間が限りなく90分に近づいていくことを意味する。選手たちは体づくりやコンディショニングの面で、これまで以上に走れる状態を作らなければ新時代のサッカーについていけなくなってしまうかもしれない。

 今回のワールドカップで、我々は「アディショナルタイム10分」が当たり前になっていくサッカーの未来をひと足早く覗き見ることになるのだろうか。

(取材・文:舩木渉)

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