ドイツに逆転勝利も、GL突破のためにはコスタリカ戦が重要に
森保一監督率いる日本代表は、現地時間11月23日に行われたカタール・ワールドカップ(W杯)グループリーグ第1節のドイツ代表戦に2-1で逆転勝利し、これ以上ないスタートを切った。同じくアルゼンチン代表にサウジアラビア代表が逆転勝利したことで、サウジアラビアは翌日が突然、祝日になった。日本がドイツから挙げた勝利も、これと同じくらいの価値はあり、歓喜に沸くのも無理はない。
だが、喜ぶのはまだ早い。ドイツ代表、スペイン代表、コスタリカ代表と同じグループEに入った日本だが、ベスト8進出という目標に向けては、まだ何も勝ち取っていない。W杯で4度の優勝経験のあるドイツから勝ち点3を挙げたとしても、次のコスタリカ戦に敗れたとしたら、この金星の意味は薄れてしまう。喜ぶのは、グループリーグを突破してからでも遅くない。
①ドイツ代表に勝った慢心
中3日で行われるグループリーグ第2節に向けた不安要素の一つは、強豪ドイツに勝ち、さらにコスタリカが初戦でスペインに0-7という大差で負けたことからくる慢心だ。DF長友佑都(FC東京)によれば、試合後のロッカールームでもすでに「次だよ、次!」という声も上がっていたというが、『最後にはドイツが勝つ』という格言があるくらいのサッカー大国を逆転で破ったことは、心に隙を生みかねない。
②手負いのコスタリカ代表
また、対戦するコスタリカは、入国の際にトラブルが起きて、準備段階でイラク代表とのW杯直前の親善試合が行えなかった。スペインを相手に0-7という大敗を喫したが、彼らも2連勝すれば、まだ決勝ラウンド進出の可能性を残している。『失うものは何もない』という姿勢で来ることが想定される。『手負いの虎』には、十分な警戒が必要だ。
③冨安健洋と酒井宏樹の負傷の状態
ドイツとの死闘を繰り広げた選手たちのコンディションにも不安要素だ。後半からピッチに立ったDF冨安健洋(アーセナル)は、試合の終盤にピッチに座り込む場面があった。試合後のミックスゾーンで、冨安は「あれは流れが悪かったので。押し込まれていましたし。それであえて倒れて、流れを断ち切ろうかなという思いがあった」と、戦略的なものだったことを明かしている。さらに「でも、メディカル呼んじゃうと外に出ないといけないので、ちょっとうまくやりました」と笑顔を見せ、「次への心配は?」という声にも「好きなように書いてください」と言う余裕も見せていたことから、心配はなさそうだ。
より心配なのは、ベンチに下がってからFW浅野拓磨(ボーフム)がゴールを挙げた後も、足を引きずって歓喜の輪に加われていなかったDF酒井宏樹(浦和)の方だ。自身の状態について「まだ分からない。でも、26人いるので」と話しており、決して状態が良いとは言えなさそうだ。
④板倉滉、遠藤航、冨安健洋のリバウンド
この試合での負傷以外にも、コンディション面の心配はある。復帰後、初の先発フル出場したDF板倉滉(ボルシアMG)、この試合が復帰戦となった冨安、そしてMF遠藤航(シュツットガルト)のリバウンドが、どう出るか。試合中の選手たちは、アドレナリンも出ていて痛みを感じずに、試合が終わってから自分の体に起きている異変に気付かされることがある。ドイツとの過酷な試合で蓄積された疲労やダメージは、想像を絶するものがあり、キープレーヤーたちが中3日でどれだけリカバリーできるかは、大きなポイントとなる。
絶対に避けるべきセルフジャッジ
⑤修正できなかった前半の戦い方
前半45分の日本の出来は、褒められるものではなかった。MF鎌田大地(フランクフルト)は、「恥ずかしい内容。最悪の試合だった」と反省した。ハーフタイムで3-4-2-1に布陣を変更したことで一気に状況は変わったが、フォーメーションがかみ合わないまま、前半の45分間を過ごしたことは不安でもある。キャプテンのDF吉田麻也(シャルケ)は、「こういう大会では、中で変えるのは難しい。声も通らないし、みんなも緊張している」と言うが、再び同じ状況に陥った時、最少失点で乗り切ることはできるのか。
⑥久保建英と前田大然のパフォーマンス
9月のアメリカ遠征で好アピールをして、最終登録メンバー入りしたMF久保建英(レアル・ソシエダ)とFW前田大然(セルティック)が、持ち味を出せなかったことも直視すべきだ。今回は相手とのかみ合わせの影響もあるだろう。それでも久保が守備に忙殺された結果、肝心の攻撃面で力を出せずに、DFアントニオ・リュディガーに子供のように扱われたのはショックですらあった。また、前田は持ち前の迫力あるプレッシングがほとんど見られなかった。こちらもGKマヌエル・ノイアーを使うドイツのプレス回避を意識したものかもしれないが、このパフォーマンスであれば、もう少し前線で基準点になれるFW上田綺世(セルクル・ブルージュ)を起用した方が良かったかもしれない。
⑦セルフジャッジでボールウォッチャー
また、GK権田修一(清水エスパルス)の連続セーブでゴールを守り切った場面、日本は守備陣がオフサイドを要求して、足が止まっていた。リプレイを見ると、日本はオフサイドを取ることができていない。権田の神がかったセービングでゴールを守り抜くことができたものの、審判へのアピールをしたり、オフサイドを確信したような素振りで、ルーズボールへの反応が遅れている。後半の厳しい時間帯ではあったが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)もあるのだから、絶対にセルフジャッジでプレーを止めることはやめなければならない。
このドイツ相手の勝利は、17日に行われたカナダ戦(1-2)で浮き彫りになった修正点に取り組んだことも大きかった。敗戦から学ぶことは多いが、この日のドイツを相手の勝利からも学べることは多いはず。さらなる歓喜を味わうために、まだ見ぬ景色を見るために。戦いはまだ始まったばかりだ。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)