カタール・ワールドカップで、日本代表は初戦でドイツ代表相手に2-1の逆転勝利を収めた。一気に話題が沸騰しているが、この勝利にはさまざまな情報と意味が込められている。歓喜がもたらされた理由と今後への影響について、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生が熱戦直後の現地で激論を交わした。
■苦しんだ前半
――現地で見ていても相当盛り上がったのではないでしょうか。
大住「僕は日本代表の試合ではいつも大騒ぎをして、周りの記者に怒られるくらいなんだよね。今回は後半アディショナルタイムに“早く終われ、早く笛を吹け!”って言っていたら、周りの記者は皆、笑っていました。後藤さんはクールだよね?」
後藤「点が入った時には“おおっ”とは言いましたよ。そもそも僕はドイツには勝てるって、ずっと言っていたじゃないですか。ああいう劇的な展開になったのは、前半はプレスに行かず、引いて守る時間が長くなったからですよね。森保一監督は記者会見で、何か話していたのかな」
――後藤さんは次の試合(ベルギー対カナダ)が行われるスタジアムへ移動するため、会見には出られなかったんですよね。大住さん、どうだったのでしょうか。
大住「最初は日本もプレスに行けていたんだよね。何回か中盤で引っかけてチャンスになりかけたこともあったんだけど、途中から相手のテンポが上がって、まったくプレスに行けなくなって、きっかけのつかみようがないという感じだった。
プレスには連動性が重要で、森保監督がよく言う選手間の距離が、一方で複数の選手が引き寄せられることによって、他の場所では広げられていた。だから、日本が狙いとする守りができなくなってしまったと思うんだよね。理由について森保監督はあまり細かく話さなかったけど、そういう状況になることでパスを逆サイドに振られた時にスペースが空いてしまっていた。PKを与えた場面が象徴的で、後半は何かを変えなければいけないという選択をしたみたい」
後藤「もちろん相手がドイツなんだから、そう簡単にプレスに行けなかったのは分かる。でも、行く姿勢を見せられなかったのは、ちょっと残念だったな。逆転できたのは良かったけど、ドイツがシュートをふかしてくれていたから勝てたという面もあるんだし。あそこで2点目、3点目と取られていたら、手も足も出なくなっていたでしょ?」
■なぜ後半に盛り返せたのか
大住「前半は本当にドイツのテンポが良くて、日本はついていけなくなって、いいようにやられていたもんね。どうして後半、ドイツのテンポが落ちたのかな」
後藤「ドイツは大きな問題を抱えているんだろうな、とは思うけど、分からないな。ただ、最近のドイツは90分間良い試合をしたことがない」
大住「5バック気味にした日本のサイドにスペースがなくなったから、というだけではないような気がする」
後藤「日本のシステム変更と、なぜだか分からないけどドイツのテンポが落ちてきたのがかみ合って、展開が変わっちゃった。その理由は、お互いにいろいろ考えないといけないんだろうな。
でもね、こういう話というのは、互角の相手との試合後の感想だよね。日本も随分強くなったと思っていたけれど、前半だけならやっぱり差があるのかなと感じた。でも後半はそんなことはなくて、ドイツはかなり慌てていたもんね。アントニオ・リュディガーなんて、最後の方には浅野拓磨を怖がっている場面があったじゃない」
大住「そうなんだよね。浅野にびびっていたからね。サッカーでは“2つのハーフがある競技”という言い方をするけど、その典型だったよね。前半は0-4になってもおかしくないような内容だったけど、後半は“行ってこい”という流れになって、権田修一がよく防いでくれているうちに同点、さらには逆転という、驚くような展開だった。サッカーじゃなければ、こういう試合はないんじゃないかな」
後藤「そんなことないよ。ラグビーでも、前半と後半で流れが変わることはあるよ。だけど、今回は偶然の勝利じゃないから」
■奇跡の勝利ではない
大住「後半も日本よりドイツの方がシュートは多くて、決定的なチャンスも多かった。相手が外してくれたというのは、大きな要素ではあったよね」
――ドーハの奇跡、という呼び方をしている人もいます。
後藤「奇跡じゃないよ。もちろん、ドイツの方が強かったけど、奇跡というほどのレベルの差はない試合だった。弱いチームでもちゃんと考えて懸命に戦えば勝てるのがサッカーなんだから、この勝利は奇跡でも何でもない」
大住「そうだよね。前半45分間は、何をやっているんだというくらい悪い内容だったけど、後半を迎えるにあたって森保一監督が3バックに変えると決断して、それに応えられる人材がいた。さらに、どんどん攻撃にシフトしていく交代策がものすごくよく練られていて、狙い通りに攻撃力が増していった。そういう面では、かなり必然的な後半ではあったんだよね。シュートがバーに10本当たったとかいう話ではなくて、本当に、勝つならこれ、という形で勝ったと思う」