■12月1日/カタールW杯 グループE第3戦 日本代表2ー1スペイン代表(ハリファ国際スタジアム)

 代表通算3ゴール目が、とてつもない価値を持つこととなった。

 12月2日(日本時間)のスペイン戦で、田中碧が決めた得点である。

 1対1で迎えた51分の逆転弾の場面では、三笘薫の折り返しがクローズアップされている。

 右サイドの堂安律がグラウンダーのクロスを供給し、ファーポスト際に前田大然と三笘が走り込む。後ろ側の三笘がボールに食らいつき、ゴールラインぎりぎりで折り返した。ボールがライン上にほんのわずか残っていたことで、VARのチェックを経てゴールが認められたのだった。

 ダブルボランチの一角を担う田中は、鎌田大地よりも伊東純也よりも早く、三笘の折り返しを押し込める場所で入り込んでいる。流れのなかであそこまで思い切って飛び出していくシーンは、日本代表ではあまり多くない。

 2021年10月のオーストラリア戦で決めた代表初ゴールは、ペナルティエリア内右から逆サイドネットへ突き刺した右足シュートだった。今年6月のパラグアイ戦で決めた2点目も、ペナルティアーク付近からの右足シュートだ。シュートレンジの広さは周囲が認めるところだが、ゴール前へ誰よりも早く飛び込むプレーは率直に連想しにくい。

 しかし、他でもない田中自身にとっては確信を持ったプレーだった。試合後、「気持ちで押し込んだ?」と問われると、「いや、気持ちじゃないですね。あそこに入るのはずっとやってきたんで、うまく結果を残せたのは良かったと思います」と話している。

「W杯で点を取るということを、ずっと前々から思っていたし、言っていたので。必然であれば必然だし、偶然であれば偶然なんですけど、ただ、少しは自分がやってきたこと、それはいままでの人生を含めて、自分がサッカーと向き合ってきたことに神様がご褒美をくれたのかなと思います」

■「自分がここで点を取ると信じてやってきた」

 グループステージ初戦のドイツ戦で、田中はダブルボランチの一角に指名された。遠藤航とのコンビは、昨夏の東京五輪でも見られたものだ。信頼に足る組合せだが、ファーストチョイスではない。守田英正の離脱によるプランBだった。

 コスタリカとの第2戦では守田が復帰し、遠藤のパートナーを務めている。4-3-3では遠藤、守田とともに中盤を構成した田中だが、主戦術が4-2-3-1へ戻るとバックアップの立場となり、3-4-2-1でもそれは変わらなかった。スペイン戦でスタメンに復帰したのも、遠藤がコスタリカ戦で負傷したことによるものだった。

「ケガ人が出ていろいろあってチャンスをもらっている、と思われてもしょうがないですけど、自分が出ている以上、結果を残してポジションを勝ち取りたいですし、いまこの状況ですごくうまくなるかと言ったらそうじゃない。そう考えると、目に見える結果を残すのが一番手っ取り早い。それを残せたのは良かったですし、自分がここで点を取ると信じてやってきたし、ずっとイメージしてやってきたので、それを現実にすることができて、自分がやってきたことが少しは報われたのかなと思います」

 スペイン戦のゴールは、日々の積み重ねが裏づけとなっていたのだ。

「シンプルに自分の人生が少し報われたというのはありますし、でも、報われたのは一瞬のことで、自分がやってきたことすべてが報われたわけではないのも事実なので。W杯で点を取れたのは一瞬のご褒美だと思うので、こういうのを積み重ねていってまた、自分がよりいろんなものを手に入れられるんじゃないかなと思います」

■「自分たちが強いと信じることは大事だと思います」

 日本がグループステージで2勝するのは、2002年の日韓大会以来だ。当時はロシアとチュニジアから勝利を奪ったが、今回はW杯の優勝経験国を連破したのだ。だからこそ、グループステージのサプライズとして受け止められているのだが、田中は現実を客観的に見つめている。

「次また同じグループに入ったとして、今回の結果を受けて僕らが強い側(の立場)へいくとは思っていない。

 ただ、今大会で結果を残したのは自信になるし、こういう歴史を積み重ねていって、たぶん世界から強豪国と言われるようになると思う。この2勝で強くなったとは思わないですけど、自分たちが強いと信じることは大事だと思います」

 次戦は板倉滉が累積警告で出場停止だ。酒井宏樹の回復具合も気になる。さらに、遠藤をスタメンで起用できるのかも、コンディションをチェックする必要がある。不確定要素を抱えるなかで、田中が結果を残したのはチームにとってプラス材料だ。

 ボランチの選手では稲本潤一と遠藤保仁に次ぐW杯の得点者となった24歳は、ラウンド16のクロアチア戦でもキーマンになりそうだ。