森保監督はフットサル前監督に実技と座学の講習会を受講

 カタール・ワールドカップ(W杯)グループE第3戦、日本代表がスペイン代表に勝利できた要因の1つに、高い位置からのプレッシング、いわゆる「ハイプレス」が機能したことが挙げられる。そのスペシャリストであるのが、FW前田大然(セルティック)だ。

 Jリーグ時代には、2019年から2021年までの3年連続でJ1のスプリント王に輝いた韋駄天は、この試合でも持ち味を発揮。出場した62分間で、60回のスプリントを見せており、そのうちの1つがMF堂安律(フライブルク)の同点ゴールへとつながっていった。

 日本でプレーしていた頃から、話題になっていた前田のプレッシング能力だが、このW杯に臨む前に、前田は世界でも自身の武器が通用することを把握できていた。今年1月に移籍したスコットランド1部セルティックは、今シーズン国内リーグだけでなく、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも戦い、そこで前田はスペイン1部レアル・マドリード、ドイツ1部RBライプツィヒとも対戦した。

 自身の驚異的なスプリント能力について、「もともと走れるのはありましたけど、チームのために走るというのは、さらに高校時代やプロ1年目で築き上げたもの」という前田は、「W杯の前にCLがあって、そこでも『できる』っていう部分は証明できていたので、それもこの大舞台でできると分かっていた」と、自信を持ってW杯に臨めたと語っている。

 こうした特徴を持つ選手の能力を、森保一監督も最大限まで引き出そうとしている。参考にしたのは、サッカーと似て異なる競技であるフットサルだった。

 森保監督をはじめ、現在のサッカー日本代表のコーチングスタッフのほとんどのメンバーは、フットサル日本代表のブルーノ・ガルシア前監督に実技と座学の講習会を受けた。現在、スペイン1部ベティスのフットサルチームを率いているブルーノ監督は、昨年リトアニアで開催されたフットサルW杯で日本代表を率いて、ベスト16進出を果たした。W杯でも世界の超強豪となるブラジル代表にラウンド16で敗れたものの、1次ラウンドではスペイン代表と大接戦を演じて、ブラジル戦でも先制するなど、フットボール王国を脅かした。ハイプレスを基本とする戦い方は、世界的に大きく評価された。

フットサルの「ジョガーダ」に近いマインド

 森保監督らはブルーノ監督の講習会で、実際にフットサル日本代表の選手たちが行うトレーニングを体験し、座学ではフットサル日本代表の取り組みや戦術などを学んだ。この時の学びが、森保ジャパンにも生かされている。

「フットサルは、よりハイインテンシティー、ハイスピードのなかでプレーしなければいけません。その部分で、アグレッシブにプレッシャーをかけて、そのなかで技術力を発揮していくところは、非常に参考にさせていただく学びができたと思います」

 また、時間と空間がないフットサルでは「ジョガーダ」という戦術のおおよその「型」を決めて置き、そのなかで選手が判断をして、実際のプレーで表現することがある。ドイツ戦の前に、MF鎌田大地(フランクフルト)は「ボールを奪ったあとに常にどこが空いているのかをチームとして共有している。極端に言えば、ボールを奪ってから見ずに蹴っても、そこにいないといけないくらいの感覚」と話したが、これもフットサルの「ジョガーダ」に近いものがある。

 森保監督は「フットサル日本代表は、いろんな戦い方のパターンを持っていますが、パターンという型にハメるのではなく、たくさんあることが判断につながる。『型』をしながらでも、相手がそれを止めにきた時は、違う判断をしないといけない。その判断のベースと柔軟性という部分を学ばせてもらいました」と語っている。

 日本が勝つために必要だと思うことなら、なんでも取り組むという森保監督。JFA夢フィールドができて、フットサルやビーチサッカーの代表チームスタッフと交流を持てる機会が増えたなか、その環境を生かして学んだことも、ベスト16の壁を打ち破るために最大限に使っていく。(FOOTBALL ZONE特派・河合 拓 / Taku Kawai)