2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る!
■自信満々のPK戦
何というチームだろうか!
ラウンド16の日本戦に続き、クロアチアは準々決勝でもブラジルを相手に1-1からPK戦に持ち込み、4-2で勝って準決勝に進んだ。しかもラウンド16と準々決勝での「連続PK勝ち」は前回のロシア大会に次いで2大会連続である。
私の経験では、2試合連続PK戦になったチームの勝率はかなり低い。当然だろう。前の試合のPKを見られてしまっているのだ。「自分のキックを知られている」ということで自ら足が縮んでしまう選手が意外に多い。さらに「PK戦は運半分」であるなら、幸運を使いきった次の試合には不運しか残っていない可能性が高い。しかしクロアチアは、ブラジル戦でも、登場した全選手が自信満々のキックを見せた。
PK戦前、ベンチに戻ったときの両チームを見ていた。選手を集めると、クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督は即座に「1番○○、2番●●…」と、指を折りながらキッカーを指名した。PK戦になった場合にどう戦うか、明確なプランをもっていた証拠だ。
日本戦でも一番手に指名されたニコラ・ブラシッチは、左へけった日本戦とは違い、中央に力いっぱいけり込んだ。日本戦もブラジル戦も4人目で終わったのだが、ブラシッチ以外はすべて別の選手だった。ブラジル戦では、2番手のロブロ・マイエルも中央に強いボールを決め、3番手のルカ・モドリッチは左隅に低いボールを送り込んだ。そして4番手のミスラブ・オルシッチも左隅に低く決めた。2試合で共通していたのは、4人中3人が交代選手で、120分間を戦った選手は1人だけということだった。
そしてGKドミニク・リバコビッチである。日本戦で南野拓実と三苫薫のシュートを止めたように、ブラジル戦でも1番手のロドリゴのシュートをセーブ。勝利の立役者となった。
■日本とブラジルとの違い
間違いなく、クロアチアはPKの準備に相当な時間をかけてきたはずだ。だからダリッチ監督は迷わず選手を指名し、選手によっては、おそらくけり方まで指示したのではないか。
日本もブラジルも、PK戦を軽視したか、少なくともクロアチアほどには真剣に考えていなかったように思う。日本は他のことをこなすのに大わらわでPK戦まで手が回らず、ブラジルには、PK戦になるという想像さえ働かなかったのではないか。その結果、真剣に準備したチームとの間に、大きな「違い」ができてしまった。
だが、PK戦で勝つには、その状況にもっていかなければならない。ブラジル戦のクロアチアは、日本にてこずったのと同じチームかと思うほど生き生きとしていた。日本戦から変わったのは2人だけ。グループリーグのF組で生き残るために3戦目のベルギー戦まで全力を尽くし、ラウンド16では日本を相手に120分間プレーしなければならなかったクロアチアは「へろへろ」のはずだったのに、意外だった。
■ブラジルの攻撃力を無力化
しかもクロアチアは日本を相手にした試合よりも安定した守備と活発な攻めを見せた。右サイドバックのヨシプ・ユラノビッッチが活発に攻め上がり、ブラジルを苦しめた。延長前半の終了間際にブラジルFWネイマールの見事なゴールで突き放された後、試合自体は完全にブラジルに支配されていたにもかかわらず、ワンチャンスを生かしてブルノ・ペトコビッチが同点にしたときには、鳥肌が立つ思いがした。
ブラジルはモドリッチを少しフリーにし過ぎたかもしれない。彼は守備時には「トップ下」の選手のように前線に残り、マイボールになるとDFラインの近くまで降りてきてボールを受け、さばいた。モドリッチが安定したパス回しをしたことで、クロアチアはブラジルから連続攻撃を受けずに済んだ。
ラウンド16の韓国戦まで圧倒的な力を見せ、多くの人が優勝候補の筆頭に挙げていたブラジルの攻撃を半ば無力化し、ネイマールのゴールまで決定的な形をつくらせなかったクロアチアの戦い、全員が連係し、球際で見せた魂のこもった競り合いは、心を打つものだった。
選手層は厚いとは言えず、攻撃もけっして華麗ではない。しかしクロアチアはワールドカップの舞台で「勝ち進む」ということだけにフォーカスし。それを2大会連続で実行している。ロシア大会では決勝戦まで進んだ。カタール大会では準決勝進出を決め、今回も7試合を戦うことになる。
日本のサッカーは、「クロアチアとの差」をしっかりと分析する必要があるように思う。