FIFAワールドカップ・カタール2022の準決勝が12月14日(日本時間)に行われ、アルゼンチン代表がクロアチア代表に3-0で勝利した。

前半32分、アルゼンチン代表MFエンソ・フェルナンデスのスルーパスに反応したフリアン・アルバレスが、ペナルティエリア内で相手GKドミニク・リバコビッチと交錯。これにより得たPKをリオネル・メッシが物にし、同代表が先制した。

同39分にもアルゼンチン代表が相手のコーナーキックを凌ぎ、ロングカウンターを発動。ハーフウェイライン付近から独力でボールを運んだアルバレスがゴール前の混戦を制し、追加点を挙げた。

後半24分には、味方のスローインのこぼれ球を拾ったメッシがハーフウェイライン付近からドリブルを始め、右サイドを突破。相手DFヨシュコ・グバルディオルを振り切ると、ペナルティエリア右隅からクロスを送り、アルバレスのゴールをアシストしている。この得点で試合の趨勢が決した。

難敵クロアチアのペースを、いかに乱したのか。ここではアルゼンチン代表の戦い方を振り返る。


堅守遅攻のアルゼンチンがクロアチアを手玉に。あるようで無かった隙【W杯試合分析】
アルゼンチン代表vsクロアチア代表、先発メンバー

要所を押さえた守備で主導権を握る

前半は基本布陣[4-1-2-3]のクロアチア代表がボールを保持し、アルゼンチン代表が[4-4-2]の守備隊形で構える展開に。メッシとアルバレスが2トップを組み、この2人が相手の中盤の底マルセロ・ブロゾビッチへのパスコースを塞ぎながら、じわりじわりとクロアチア代表のセンターバックに詰め寄っていた。

ブロゾビッチが2センターバック間へ降り、クロアチア代表が3バックを形成した際には、メッシとアルバレスはプレスを自重。2トップと4人の中盤の間はがら空きで、ここでは相手にパスを繋がれたが、4バックと中盤の間は適宜圧縮されたため、この区域からクロアチア代表の決定機は生まれず。クリスティアン・ロメロとニコラス・オタメンディの2センターバックによる最終ラインからの飛び出しと、レアンドロ・パレデスとフェルナンデスの2ボランチによる背後のスペースのケアが冴え渡っていた。

クロアチア代表の最終ラインへのプレスが緩く、故にここからのロングパスを何本か許していたが、ニコラス・タグリアフィコとナウエル・モリーナの両サイドバックを含む、アルゼンチン代表のバックラインの走力やカバーリング能力が高かったため、大ピンチには至らず。隙があるようで、実は要所を押さえている。このアルゼンチン代表の狡猾な守備に、クロアチア代表はしてやられた。

堅守遅攻のアルゼンチンがクロアチアを手玉に。あるようで無かった隙【W杯試合分析】
アルゼンチン代表 FWフリアン・アルバレス 写真:Getty Images

試合を膠着させるためのボール保持が奏功

自陣後方やミドルゾーンで守備ブロックを敷き、奪ったボールを縦に速く繋ぐ。この“堅守速攻”という概念は今やサッカー界に行き渡っているものだが、アルゼンチン代表の戦い方は一風変わっていた。

今のアルビセレステス(白と空色)に根付いているのは、試合を意図的に膠着させるための遅攻。相手のカウンターの起点となりかねないリスキーな縦パスを避け、2センターバックや2ボランチが極力最終ライン付近でボールを保持。クロアチア代表の最終ラインの背後や、フリーのメッシにパスをつける場面はあったが、攻撃のテンポを上げようとする姿勢はあまり感じられなかった。

消極的に見えるボール保持やパスワークで、相手の攻撃時間やカウンターの機会を奪う。この戦い方で試合を膠着させたアルゼンチン代表は、前半32分にフェルナンデスが突如浮き球パスを繰り出しチャンスメイク。先述の通り、これがアルバレスのPK奪取に繋がっている。

この場面では、アルビセレステスの漫然としたボール保持に慣れていたクロアチア代表の選手たちの集中が切れており、最終ラインが不揃いに。この隙をフェルナンデスとアルバレスに突かれる恰好となった。

2点目もロングカウンターから生まれたが、今回のアルゼンチン代表の勝因は、持ち前の“堅守遅攻”でクロアチア代表に試合の主導権を渡さなかったことに尽きるだろう。決勝でもこの賢い試合運びを完遂できるかに注目だ。